贖罪



「だんだん現場がスプラッタになっていくな……」






目の前の光景に、一颯は眉間を押さえる。
瀬戸は慣れてきたとはいえ、これまでの事件がましだったと言える程の凄惨な現場に一颯の後ろに隠れてしまっていた。
さすがの汐里も瀬戸に無理矢理現場を見せないほどだ。





現場は昨日一颯が家族で訪れたレストラン、gulaの厨房。
被害者はこのレストランの女性シェフの優木ちづるで、四肢をバラバラに切られた状態で発見された。
凶器は厨房にあった牛刀とされているが、検視官によれば四肢の切断面が刃が粗いノコギリのようなもので切られたのでは?という見解があった。





「怨恨ですかね?」




瀬戸はひょっこりと一颯の後ろから顔を覗かせたと思えば、すぐに引っ込めた。





「いや、怨恨じゃないな。これを見ろ」





汐里は遺体の近くに落ちている果物を手に取った。
その果物はいちじくで、皮の表面には《gula》と何かで彫ったのか傷がついていた。
険しい顔をする瀬戸に対し、一颯はハッとする。




「いちじく……《gula》……。七つの大罪。クソ、昨日来たのに気付かなかった!」





「いちじくはアダムとイヴが食べたとされる禁断の果実。そして、《gula》。七つの大罪の暴食を意味するラテン語だ」






「暴食……」




一颯は汐里の言葉に、厨房を見渡す。
厨房内は野菜や調理済みの食品が散乱し、全てに齧られたような跡が残っていた。
散乱というより食べ散らかした、と言った方が確かかもしれない。
これが暴食(gula)の仕業だというなら納得が行く。





「食べ物だけでなく、人の命まで食らうか。意地汚いな、暴食というものは」





「……京さん、あっちで聴取を待つ従業員が待ってます。行きましょう」





一颯が促した方向にはレストランのフロアがあり、数人の従業員がテーブルに座って待っている。
皆、シェフの死に動揺しているように見えた。
が、一人だけウキウキ顔で目を取ろうとしている若い女がいた。
見た目は大学生で、面影がある人物に似ている。





「……瀬戸、アレがお前の妹か?」





一颯が後ろに隠れている瀬戸を見やれば、彼は「すみません、うちの妹が……」とこそこそと更に隠れる。
今は遺体からではなく、鬼のような形相で睨んでいる汐里の視線から隠れていた。
本来ならば、インターンで殺人現場に大学生が来ることは殆どない。
だが、あの大学生は署長の娘だ。





「ボンボンの次はお嬢か……クソが」





舌打ちをする汐里に、一颯はため息を吐く。
彼女の中では恐らく一颯もクソと罵るボンボンの中に含まれているのだろう。
それに複雑な気持ちになった一颯だったが、気を取り直して聴取へと向かうのだった。






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