贖罪


「同じように産まれて、同じように死ぬのに何故こんなにも世の中は不平等なんでしょうか」






裕福な家の育ちの一颯だが、政治家の父の跡を継がずに警察官の道を選んだせいか、金銭感覚が庶民的だ。
両親が庶民的な生活を心掛けていたお陰もあるかもしれない。
だが、あくまでも政治家の家なので、それなりの品位がなくてはならない。
その為、多少の価値観が庶民とは違う点があった。
その違う点が高卒で警官になった一颯を困らせたのは言うまでもない。







「世の中は平等であり、不平等。平等と取るか不平等と取るかは人それぞれだ。ただ言えるのは世の中が平等でも不平等でも犯罪は無くならないってことだな」





「……何か難しいこと言ってません?」






一颯と汐里の会話に、瀬戸は訳がわからんというような顔をしている。
そんな瀬戸に一颯は苦笑いを浮かべた。
瀬戸も署長の息子なので、それなりにいい生活をしてきただろう。
そのせいか、少々世間知らずなのがたまにキズだ。






「こっちにもいたな、ボンボン(仮)」






「(仮)って何ですか」






「そのままの意味」






「??」






「京さん、これ以上瀬戸を悩ませないでください。捜査に使ってほしい脳みそを下らないことに使ったら、少ないキャパがオーバーしてしまいます」






「……浅川さん、それ暴言」





「本当に良い性格になったな、浅川」






肩を落とす瀬戸と楽しげな顔の汐里の対照的な反応に、一颯は頭を捻る。
そんなことよりも、今は捜査をしなければならない。
そう気を取り直し、一颯は汐里をその場に残して、瀬戸と共に第一発見者である被害者の妻の元へ向かう。





妻がいるのは離れの書斎ではなく、母屋にあるリビングだ。
そこに向かいつつ、「デカイ庭ですね」と周りを見渡す瀬戸の言葉に頷く。
それもそうだろう、殺害された被害者は大手銀行の頭取。
一颯も父の仕事の関係で、昔会ったような記憶がぼんやりと残っていた。






「それもそうだ。何せ、銀行の頭取の自宅なんだからな」






「高級旅館みたいな実家を持つ浅川さんが言うと、嫌味に聞こえますね」






瀬戸はジト目で一颯を睨む。
一颯は比べているつもりはない。
それに、東雲邸は純和風な造りで、被害者の自宅は洋館。
広がる庭も洋風で、日本庭園の東雲邸とは似ても似つかないのだから。
一颯は瀬戸の言っていることを理解しているようでしていないのか、少々ぶっ飛んだことを考えていた。







母屋に着いて、警察官二人が立っているドアのところへ向かう。
そこがリビングだ。
ドアをノックしてから中に入れば、被害者の妻と三人の娘がいた。
第一発見者は妻と娘の一人。






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