贖罪
「浅川と申します。この者は瀬戸。殺害されたお父様、三雲永太郎さんについていくつかお話を伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」
一颯と瀬戸は警察手帳を妻と娘達に見せた。
第一発見者である妻は突然の夫の死に憔悴しきった姿でソファーに力なく座っていて、その肩を娘の一人が支えている。
もう一人の第一発見者の娘は泣きじゃくるもう一人の娘の肩を抱いていた。
「母は話せる状況ではないので、私が話しします」
「貴女は?」
「母と同じく父の遺体を発見して、通報しました」
「お名前を伺っても?あと、他の方のお名前も」
「長女の三雲桂夏です。母の椿、次女の柊華、三女の桐香です」
長女の桂夏は末の妹の肩を抱きながら一颯の質問に答える。
年齢は桂夏は一颯と同年代で、柊華は二十歳前後、桐香は中高生と言ったところだろう。
三姉妹揃って整った顔立ちをしているので、瀬戸は挙動不審気味だ。
普段オッサンのような美人を見ているというのに。
もしかしたら、瀬戸の中では汐里は女にカウントされていないのかもしれない。
「ありがとうございます。早速ですが、質問をさせて頂きます。殺害された永太郎さんに今日変わったご様子は?」
「いえ、何も。五人で朝食を食べて、お茶を飲んでから父は仕事をしに離れへ向かいました」
「お父様は家でもお仕事を?」
「はい。根っからの仕事人間ですので」
被害者は頭取として多忙であったのは書類が散乱していた書斎を見れば分かった。
根っからの仕事人間。
その言葉は強ち間違いではないと思ってしまうほどに。
仕事人間と言われれば、一颯も当てはまるように思える。
捜査一課に異動してきて二年、捜査に明け暮れた日々を送っている。
「そうですか。では、こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、誰かに恨まれるようなことはありませんでしたか?」
そう聞いた瀬戸は被害者の妻に睨まれ、「う」と小さく呻く。
それでも、瀬戸は怯まず質問を続けた。
「気分を害されるのは分かります。ですが、ご主人やご家族の無念を晴らすための捜査に必要なことです。ご協力を」
瀬戸は切り返しが上手くなった。
捜査一課に来た頃は素人かと言いたくなるほどの切り返しで、何度汐里に怒られているところを一颯が目にしたか分からない。
親の七光りと呼ばれた瀬戸もそれなりに刑事らしく成長しているのだった。