贖罪


「一件目の被害者の家に出入りしていたのは家政婦の女性、二件目の被害者は妻と同居、三件目の被害者は別居中の妻子」






「それぞれの証言はこれだ」






顎に手を当ててホワイトボードを見ている一颯に、赤星が聴取で聞いたことをまとめた資料を手渡す。
ホワイトボードにも簡単に書かれているが、資料の方が明確だ。
一颯が受け取った資料を横から汐里と瀬戸も覗き込む。






一件目の被害者の家に出入りしていた家政婦は毎日通っていたようで、事件当日もいつも通り来たところ、被害者の遺体を発見して通報。
その家政婦は三十代の既婚者で、被害者の友人の妻だという。
被害者の友人からも証言があり、仕事ばかりしていて倒れないか心配で妻に家政婦として友人宅に通ってもらっていたとのこと。





「……友人と言えど、奥さんを未婚の男のところに家政婦で通わせます?普通?」






「俺だったらしないな」






瀬戸の問いに答えた椎名の言葉に、一颯と赤星も頷く。
友人と言えど、男と女。
何があるか分からないのだ。
実際、その辺りの証言は今回の聴取では得られなかったので、あくまでもこういう捉え方もあるということだ。






次に二件目の被害者の妻は被害者が殺害された際、友人と食事に行っていて不在だった。
還暦近い被害者に対して、妻は二十代。
親子ほど離れた夫婦は存外仲が良好だったようで、妻は第一子を妊娠中だったらしい。
帰宅した際に夫の変わり果てた姿に憔悴してしまっていたが、幸いにもお腹の子供には影響は無かったようだ。





「イケおじ系の被害者に若い妻。ドラマみたいだな。何かエロい」







「京さん、例える言葉を選んでください。オッサンですか、貴女は?」





今度突っ込んだのは汐里だ。
彼女がぶっ飛んだことを言うのは良くあることだが、もう少し言葉を選んでほしい。
どんなに美人でも中身が男勝りのオッサンみたいでは、残念さが増す。
一颯はそんな汐里に呆れつつ、資料を捲る。






三件目の被害者の妻子は離婚協定中の合間に、家族三人で息子の誕生日を祝う予定だった。
息子の誕生日は少し先だったが、その日しか被害者は予定が空いていなかったためその日になったとのこと。
被害者の妻は夫の死に、離婚協定中と言えど驚き、息子はまだ幼いせいか状況を分かっていないようだった。





「状況が分かっていない方が良いのか、それとも分かっている方が良いのか、分からないな」




被害者の息子は四歳、被害者は多忙ながらも子煩悩な一面があったらしい。
妻とも仲は悪くなく、それで離婚協定をしているのが不思議だった。
だが、夫婦には目には見えない色々なことがある。
それは警察が捜査のためと言えど、突っ込みづらいことだった。






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