二度目まして、初恋
もしかしたら、約束はすっぽかされるかもしれない。
そんな不安はもちろんあったけれど、彼女がそんな人間ではないと、そこはもう賭けに出るしかなかった。
「ごめん。ちょっとトラブっちゃって、遅れた」
「俺は別に。トラブル、平気なんか」
「あ、うん。平気。ちゃんと解決したから」
「そ」
「うん。ほんと、ごめん」
二十分ほど遅れて、会社から走って出てきた彼女は、それはそれは本当に申し訳なさそうに眉尻を下げた。
元はといえば、俺が半ば強引に取り付けた約束だったし、会社務めに限らず、仕事にトラブルは付きものだ。俺だって、退社間際にトラブルにみまわれることはそう珍しくない。けれどもこうして、気に食わない相手にもきちんと謝れるのは、彼女の、元来の真面目さ故なのだろう。
「……何食いたい?」
「えー……肉?」
「焼き肉?」
「んにゃ、焼き鳥」
「鳥か」
「そう、串に刺さったやつ」
「串刺しな」
「ちょ、言い方……!」
「事実だろ」
「そうだけども」
不毛なやり取りを避けるために本題へと強引に話を持っていけば、少し考えるような素振りを見せたあと、彼女は料理名ではなく、食材名を告げた。
学生だったあの頃は、たいていポテトかドーナツの二択だったのに。
なんて、昔を懐かしみながら、脳内で焼き鳥の店を検索する。出来れば、個室のあるところがいい。色んな意味で。
「俺が知ってるとこでいいか?」
「うん」
警戒心、足りなさ過ぎだろ。
心の中で吐き捨てて、「こっち」と個室のある焼き鳥屋へと足を向けた。