二度目まして、初恋
現実逃避と荒療治
ついに、この日が来た。
「ちょっ、ご飯なんて食べてる場合じゃな」
「おい待て落ち着け。オープンの時間までまだ三時間もあんだぞ。朝飯を抜くな。それとも家で食ったっつうんか」
「食べてません」
「米かパンか選べ。異論は認めん」
「カツサンド」
「よし米な」
「おい」
今日は待ちに待った、プレオープンの日。
正直に言おう。昨夜は全く寝られなかった。楽しみすぎて。
苦渋の決断を迫られたあの日から、待つことおよそ二ヶ月。ドキドキとワクワクが止まらなくて、会社で一番仲のいい、プライベートでも深く付き合いのある同僚、兼、友人の枝本美羽にあらざい話してしまったのは、不可抗力と言えよう。
無論その際に「あんた馬鹿なの?」という叱責をいただいた。「絶対からかわれてる」「絶対面白がられてる」「琥太郎くんみたいな優良物件を手放すとか愚の骨頂」などなど、まぁ出るわ出るわ私のダメ具合を指摘する言葉達が。
いやはや、仰るとおりです。
もちろん、己がダメ人間なのは自覚している。だからこそ、この二ヶ月間、染谷匡との接触はメッセージのみと必要最低限に留めた。ご飯の誘いは何度かあったけれど何やかんや理由をつけて断ったし、私は決めていた。今日という日が終われば、私はもうどんな理由があろうと、今まさに丼ものが早い旨い安いでおなじみのチェーン店の駐車場に車を停めようとしているこの男には、関わらない、と。
「おら、ついたぞ。降りろ」
「肉だけ倍で」
「へいへい」
同窓会にももう顔は出さない、と。