二度目まして、初恋
時刻は十四時五十二分。おそらく彼は仕事中だ。だから、一回。一回だけかけ直して出なかったら、それでもうこの件は気にしないことにしよう。だって、ただのかけ間違いかもしれないから。
『……奏海、』
「っえ、あ、出た」
『出るよ、そりゃ。かけたの、俺だし』
そう決意して、件の相手に折り返せば、たったの三コールでそれは繋がった。
「間違い、じゃなかったんだ」
『うん。奏海にかけようと思って、かけた』
「……そう、なんだ……え、と、出れなくて、ごめんね……急用、だった?」
『……ううん。ただちゃんと、奏海と話、してぇなと思って』
「……はな、し……?」
『今日、予定ある? 晩ごはん、食べに行かねぇ?』
話。今日。晩ごはん。
頭の中で単語が飛び交って、ぶつかる。「え、あ、ええと、」と返事につまれば、「奢る」と笑いながら言われた。
「っちが、金欠じゃないから! ちょっと今、出先で、」
『……そっか』
「待ってね、えっと、もうすぐ十五時だから、」
『……二十時くらいは、無理?』
「……あ、えと、たっ、多分大丈夫」
『じゃあ、それで。ごめんな、無理言って』
「ッ全然、無理、じゃないよ」
『……』
「……」
『なぁ、』
「え、あ、何?」
『やっぱ奏海ん家行っていいか?』
「え、あ、別にいいけど」
『じゃあ二十時頃に行く』
「分かった」
『ん。あとでな』
「うん」
ぷつり。通話が終わる。途端、口から一気に息が出て行って、自分がいかに緊張していたのかを思い知らされた。高校や大学の入試でも、就活中の面接でも、こんなにも緊張したことなんてなかったのに。
「……話……か、」
独りごちて、携帯の灯りを消した。