二度目まして、初恋

 上の空になっていた自覚はあったし、そうでなくともきっと結果は変わらなかった。「用事ができたから帰る」と言った私に染谷はあからさまに顔をしかめたけれど、怒ることはなく、「分かった」とレストランを出た足でそのまま帰路についてくれた。「また連絡する」と言われたけれど、さすがに「もう関わりたくない」とは言えなくて、苦笑いで返すのが精一杯だった。

「どうぞ、あがって」
「おじゃまします」

 家についたのが、十八時四十分。ほぼ一日外にいたから、とりあえずシャワーを浴びて、冷蔵庫にあるもので作れそうなオムライスの中身のチキンライスを炒めていれば、鳴り響いたインターフォン。
 モニターで相手を確認して、扉を開ければ、彼が靴を脱ぐのと同時に、かさりとビニール袋の音がした。

「オムライス?」
「あ、うん。ごめん、家に鶏肉しかなくて、」
「や、俺こそごめん。普通にご飯の催促しちゃってんなって電話のあと気付いた」

 だから、これ。
 そう言って、手に持っていたビニール袋から缶チューハイや缶ビールを出しながら、彼はへらりと笑う。

「ま……じか、ありがとう……あ、てか、卵、半熟で良かった?」

 それが直視できなくて、咄嗟に視線をキッチンへと戻す。リビングからキッチンへ移動して、冷蔵庫の前に立ち、ゆっくりとそれを開ける。

「うん。半熟で」

 付き合っていたときはだいたい半熟にしてたなぁ、なんてことを思い出しながら、卵を取り出した。
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