二度目まして、初恋

「皿洗い、俺がする」

 流れるように言葉を放たれ、流れるように食べ終えたお皿を回収された。お酒が入っていたのもあるのだろうけれど、二十代後半と二十代前半では反射神経的なものがこうも違うのかとちょっぴり切なくなる。
 ぐぴり、二本目のチューハイを一口飲み込んで、キッチンに立つ琥太郎の背中へと視線を向ける。
 ぐぴり、また一口飲み込んで、思う。あんな風に傷付けた女に、またこうして普通に接してくれるなんて、本当に彼はいい男だ。話がしたいと言っていたけれど、食べてる間は世間話というか、垂れ流していたテレビについて何やかんや話すだけだった。
 話って、何だろう。
 ぼんやりとしてきた思考の中で、ぐるぐるとそれを巡らせていたら、「いやてかさ」とキッチンから声が飛んできた。

「奏海、見すぎ」
「へ」
「視線が痛い」

 けたけたと笑いながら、タオルで手を拭いて、琥太郎はリビングへと戻ってきた。
 すとん、と躊躇いなく、彼は私の隣に腰を降ろす。けれど、付き合っていたときとは違って数センチの距離が(もう)けられている。

「片付けありがとう」
「どういたしまして」

 話、をするのだろうか。
 雰囲気的にも、時間的にも、頃合いだろう。そう思いつつも、ヘタレな私はそこに触れられない。
 ぐぴり、また飲み込めば、隣にいる彼もぐびっとビールをあおった。

「……あの日、奏海が、結婚式に行って、帰って来なかった日にさ」
「……うん」
「……その、一緒にいたのって、」
「……」
「……奏海が、ずっと好きだった奴……?」

 かたり、飲み干されたのだろうビールの缶が、ひどく軽い音を立てて、テーブルに着地した。
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