二度目まして、初恋
かんっ、かしゃん、と聞き覚えのある音がした。
「っ、すみません」
その方向へ視線を向ければ、俺の足元、アスファルトの上で横たわる四角い機械。ぶつかった人のものだろうそれを慌てて拾いあげた。
歩きながら、というのは関心しない。けれど、俺だってついついしてしまうときもあるし、何よりぶつかったのはこちら側だ。
ほんと、すみません。
もう一度、謝罪を述べて、拾ったそれを差し出しながら相手の様子をそろりと伺えば、ばちりと視線がぶつかった。
「と、つい、」
驚いた。ただその一言に尽きる彼女の表情に、思考が止まる。自分からアクションを起こすのとは違って、偶然がもたらすものに対しては心の準備ができていない。
あ、と思った。瞬間、彼女の眼が、きゅるりと左へと移動した。
「匡さぁん。大丈夫ですか~?」
間延びした声に、喋り方。そういえば、と同じように視線を左に向ければ、俺を見上げる、名前も知らない女の顔面。
は? 何だ、こいつ。
そう思ったのが先か、否か。
「拾ってくれてありがとうございました」
手の中にあった四角が抜き取られ、視線を戻せば、下げられた頭。
「っおい」
思考と感情が混ざる。
ああ、面倒だ。
道端に思考は捨てて、感情の赴くままに、足早に去って行こうとしている彼女を呼び止めようと空っぽになった手を伸ばす。
「匡さんってば! もう! 聞いてますか!?」
けれどもその手は、反対側から勢いよく腕を引き寄せる女のせいで、彼女に届くことはなかった。