二度目まして、初恋

 気は、長い方ではない。けれど、二十五年生きていれば、腹が立ったからといって怒鳴りちらしたり暴れ回ったりすればどうなるか、ぐらいは、理解している。

「人の話、聞いてねぇのはてめぇだろ」
「え?」
「手、離せ。今すぐ」

 ぎちり、歯噛みしながら、音を吐く。
 己の顔面が、今どんな風になっているのかなんて知らないけれど、にこやかでないことだけは分かる。

「離せ」
「っ、」

 びくり、女の肩が揺れて、掴まれていたところが解放された。
 ぱっ、ぱっ、と掴まれていたそこを手で払い、「二度と喋りかけんな」と女に忠告してから、彼女が、戸津井奏海が去って行った方へと視線を向ける。
 追い付け……るわけねぇか。
 当然だが、後ろ姿は見当たらない。だからといって、じゃあもういいやと諦められるような(いさぎよ)さは生憎、持ち合わせていない。

「……家……か?」

 右、左、右、左。いつもより速く、けれど道行く人にはぶつからないように注意を払いながら付近を探すも、不発に終わる。
 向かった先が彼女自身の家ならまだいい。けれど、万が一を警戒されて、彼氏の家に行かれてたら。

「……くそ……どうやったら、別れんだよ、」

 ジリジリ。腹の奥底が焼けるような感覚を味わいながら、タクシーを呼び止め、行き先を告げた。
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