二度目まして、初恋

「戸津井」

 ピンポーン。コンコン。

「なぁ、戸津井」

 インターフォンを押して、玄関をノックをして、名前を呼ぶ。
 日付はまだ変わっていない。けれど、夜分と呼べる時間帯だ。近所迷惑。その言葉が脳裏を(よぎ)りはしたけれど、他人に気を使う余裕はなかった。

「……いるんだろ、」

 ピンポーン。コンコン。

「……っ、なぁ、頼むから、」

 同じ動作を繰り返しながら、扉の向こう側にも聞こえるように声を張った。

「……と、つい……?」

 コンッ。
 もう一度、インターフォンを押そうとすれば、内側から聞こえたその音。

「……戸津井」

 扉一枚隔てた先に彼女はいる。けれどもやはり、開けてはくれない。
 ガチャ、と開かない扉を再確認したあと、ぽつりと彼女の名前を呼べば、ぴこん、と上着の内ポケットから軽快な音が鳴った。

 ── 近所迷惑

 取り出して、そこに視線を落とす。開いたメッセージアプリの中には、ごもっとも、としか言いようのない四文字があった。
 知ってる。知ってる、けど。もう、形振(なりふ)りなんて、構っていられなかった。

 ── 帰って

 ぴこん。一拍おいて、受信したメッセージの内容は、拒絶。
 まぁ、当たり前か。
 そう思う反面、だから何だという気持ちも同時に存在した。
 彼女のためを思うのならば、これ以上は関わらないのが最善だ。そんなこと、誰に言われなくとも分かってる。理解している。それを体現できたなら、どんなに良かったことだろう。
 分かってる、理解している、頭では。でも、できない。できなかった。

「かえ、んねぇ……話、できるまで、帰んねぇ、から」

 したくなかった。
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