二度目まして、初恋

 インターフォンを押すのも、呼び掛けるのもやめて、扉に背を向け、その前にしゃがみこんで、どれくらい経っただろうか。
 日中は暖かかったとはいえ、夜はまだまだ寒い。元より定時であがってさっさと帰宅する予定だったから、コートなんてものは当然羽織っていなくて、くしゃりとよれたスーツだけでは時折吹き抜けるゆるい風にさえ、あっさりと負けてしまう。
 っくし。
 ぶるりと身体が震えたあと、お決まりのように飛び出たくしゃみ。すん、と鼻をすする。
 さすがに、凍死はしないだろう。
 楽観的な思考は横に捨て置いて、ぼんやりと先のことを考える。明日は、土曜。彼女の勤務形態は把握していないから何とも言えないけれど、仮に彼女が休みだった場合、彼女が外出するのと、俺が通報されるのと、果たしてどちらが先だろうか。

「……っ、」

 こういうのも、ストーカーって言われんのかな。
 他人事のように思っていれば、頭上から、ガチャン、と音が落ちてきた。

「……とつ、い……?」
「……三時間も……馬鹿なの?」

 かと思えば、ゆっくりと開かれた扉。
 扉のすぐ前でしゃがんでいたから、数センチ開いたところで俺の背中に阻まれてしまったけれど、恐る恐る呼び掛ければ、その隙間から、渇望していた声が聞こえてきた。

「……中、」

 立ち上がり、扉から離れると、彼女は残りを開ききる。

「……入れば」

 ぽつりと、どこか投げやりに言葉を吐き捨てた彼女を見やれば、目尻が赤く滲んでいた。
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