二度目まして、初恋
「っん、」
一度、軽く触れてから、角度を変え、催促するように動いた彼の舌に応えれば、合わさったその隙間から、いやに甘ったるい声がもれた。
触れた舌に残っているお酒の味。服に染み付いた香水の匂い。
「……やっ、あ、」
嫌だと思うのに、拒めない。嫌なのに、もっと欲しいと求めてしまう。
「……っね、ぇ、待って、」
「やだ」
なけなしの理性を総動員させて、待ったをかける。しかし制止も虚しく、するりと上服の裾から彼の武骨な手が侵入して、ぷち、と胸を保護する役目のそれを解いた。
ひゅ、と喉が鳴る。
ダメ。待って。お願い。
懇願してもなお、行為を進めようとするその手を掴めば、ぴたり、彼の動きが止まった。
「っい」
かに思えたのもつかの間、制止するために触れた手を、逆に掴み返されて、がぶりと強く噛みつかれた。
「……彼氏と、別れて、くれるなら、待つ」
「……え、」
「別れてくれねぇなら、待たねぇ……何回でも、抱く。お前のこと……抱き潰して、修羅場に、してやる」
べろり。
歯形が残るほどに噛みつかれて、ひどく痛む左薬指の付け根をひと舐めして、彼は静かに唸る。
重なる視線の先に、ぎらついた獣のような瞳。状況から言えば、捕食する側は彼で、される側は私。
「……わか、れ……れない」
「あ?」
だというのに、私はその瞳にどうしようもなく欲情してしまう。
もう、いいや。数時間後に傷付くことになったっていい。来るのか、来ないのか。定かじゃない未来のことなんて、知らない。
「だって、」
どうしたって、手遅れ。そんなこと知っていたけど、やっぱりそうだったなと、ソファの上でただ横たえていただけの腕を持ち上げ、彼の首へと回した。
「もう、別れてるから」
何も考えられないくらいめちゃくちゃにされたい。
そんな、はしたない欲求のままに、少しだけ隙間のあいている目の前の唇に噛みついた。
ー終ー