二度目まして、初恋
「奏海」
改札を出てすぐ呼ばれた己の名前に、びくりと肩が揺れた。
「……琥太郎」
歩き、またはバス、もしくはタクシーで帰るとは思わなかったのだろうか。まるで私が電車で帰ることが分かっていたかのような待ち伏せの仕方に、どくり、心臓が嫌な音を吐く。
「……何で、電話出ねぇの?」
「……あわ、ててた、から……家ついたら、折り返そうと思ってた」
ジ、と視線をそらさず見られて、思わず、俯いてしまう。そんな私に何を思ったのかは分からないけれど、琥太郎はもう、それ以上は何も言わず、私の左手首を掴んで引いた。
帰る、ということなのだろう。痛いと感じるくらいの力で引っ張られるけれど、それに抗うことはできなくて、引かれるがままに歩を進めていく。
てくてく、てくてく。見覚えのある、ほぼ毎日歩いている道を進めば、見えてくる我が家という名のマンション。
そうだろうなとは思っていたけれど、やっぱりそうだった。
オートロックを抜け、エントランスを抜け、エレベーターに乗り、己の部屋の前へ。「鍵」と催促されたその一言に若干のイラ立ちも覚えたけれど、今は大人しくそれに従った。
「っい、」
「で?」
「た……ぁ、」
解錠し、扉を開けて中に入った瞬間、靴を脱ぐ暇さえ与えられず、背後から押され、壁へと叩きつけられる。
ガチャン、ガチャリ。閉まる音と施錠の音。
「その、ギリギリ見える位置にガッツリついてるキスマークの説明、してくれんだろ?」
次いで聞こえたのは、感情の一切のっていない声だった。