二度目まして、初恋

 ひゅ、と喉が鳴る。
 はくり、口は動くけれど、音は出てこなかった。

「……俺……謝ろうと思って、ここで、奏海のこと待ってた」
「……こ、たろ、」
「でも、いつまで経っても帰ってこねぇし、電話も出ねぇわ、メッセージも未読……諦めて、家帰って寝て……朝一、電話したら、男が出た」
「……っ」
「……悪ぃ、見ずに取った。俺のじゃねぇな。だとよ」
「……こ、こた」
「そんときの、俺の気持ち、分かるか?」
「……」
「……なぁ、首の、それ(・・)……ふざけただけ、だよな……?」
「……」
「……なんも、ねぇ、よな? 他にも、人、いたんだろ……? なぁ、」
「っ」

 ひくりと喉が震えて、ぼろりと目玉からそれがこぼれ落ちた。

「…………め、ん」
「は?」
「……っ、ごめん、こた、ろ、」

 額を壁に擦り付けたまま音を吐き出せば、ぎちり、歯噛みした音が聞こえた。
 かと思えば、押さえつけていた圧がなくなって、突然の解放感にかくりと膝が折れた。

「……っ、んで、」
「……」
「……何で、否定しねぇんだよ」
「……琥太郎、」
「しろよ……嘘でも、いいから……そしたら、俺は……っ、しん、じるのに、」
「……琥太郎、」
「っ騙せよ! じゃねぇと! 俺は! っ俺……は、」

 ぺたりと座り込んだ体勢のまま、後ろにいるであろう琥太郎へと視線を向ける。
 ゆらり、私を見下ろすその()がゆらいで見えたのは、おそらく気のせいなんかじゃないのだろう。

「……無理、だな……別れよ。俺ら」
「……っ」
「……じゃあな」

 泣くな。そんな資格はない。
 ついさっき閉められたばかりの鍵と扉が開いて、彼の姿が見えなくなるまで、馬鹿のひとつ覚えみたいに、ずっとそれを頭の中で繰り返した。
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