二度目まして、初恋

 およそ、十年前。好きだと告げられたあのとき、頭に浮かんだのも、口から出たのも、「友達としか思えねぇ」だった。喋るのも数人で一緒に遊ぶのも楽しかった記憶があるけれど、それが愛か恋かと聞かれたら、きっと違っていて、思ったままを素直に返した俺に、彼女は「分かった、ありがとう」と笑ってくれた。
 だから、何も変わらないと思っていたのに。あの日以降、彼女は俺に話しかけなくなった。とはいえ、露骨に避けられているとかではなく、必要な会話はしていたから、それに気付いたのはずっとあとのこと。その違和感に気付いたのは卒業式の前日で、だからといって、何か行動を起こしたかといえば、俺は何もしなかった。
 ただ何となく、ぼんやりと、まぁそうだよなと、気まずいよなと、どこか腑に落ちないものはあったけれど、そういうものなんだと思うことにした。それが覆されたのは、忘れもしない、三回目の同窓会が(おこな)われたあの日。誰が言ったのか、「え!? 奏海ってば彼氏できたの!?」という声がいやに鼓膜に引っ掛かって、脳内は「なんで」で埋め尽くされた。
 なんで、も、くそもない。彼女は、戸津井奏海は、前へ進んだだけだ。己のことをいつまでも好いているなんて、そんなことありえないのに、俺はそう(・・)だと思い込んで疑わなかった。
 当たり前にあると信じていたものが何の前触れもなく奪われた焦燥と、彼女の隣にいるであろう見知らぬ誰かへの嫉妬で、気が狂いそうだった。とはいえ、先に関係性を断ち切ったのは己だ。同じように、己も前に進むしかないのだろうと告白してきた女と付き合ったこともあった。けれど、ダメだった。初めて付き合った女も、次に付き合った女も、「私のこと好きじゃないでしょ」と俺の元から去って行ったから、諦めることを俺は諦めた。
 次のチャンスは、絶対に逃さない。
 そう決意して、付け入る隙を(うかが)い続けて、数年。酒を嗜める年齢になってからもほろ酔いぐらいにしかならなかった彼女が、珍しく泥酔して「彼氏と喧嘩した。てか、前からだけど、結構ね、彼ね、束縛すんの。んでね、喧嘩。もー最悪!」と愚痴をこぼしたから、うっすらと口角が上がるのを自分では止められなかった。
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