桜の木の下で、また君を待っている
私の知っているこの場所が、変わらないのに変わるのが怖くて、結局来ることはないのだろうな、と思う。

「ここの桜、次の4月は見に来ないんですか?」
「……来ないかもね。でも、山河くんがいたら来ちゃうかも」

私は小さく笑って、立ち上がった。
山河くんはしばらくの間、桜の木を見上げていた。

「……それじゃあ、戻ります?放送室」
「ええ、そうね」

私は少し前を歩く山河くんを追いかける。
心の中で、この場所に別れを告げながら。

「ねえ、放送私がしてもいい?」
「最後だし、好きにしていいですよ。三笠さん、下校の放送好きですよね」
「誰もいない校庭に、自分の声が響くのが好きなの」

誰もいない空間と機械を通した私の声が交わる、そんな瞬間が好き。
1日の終わりは少し寂しいけど、その寂しさに私の声が色をつけているみたいで。

山河くんは、私の言葉に何を感じたのかはわからないけど、ふぅんとあまり興味のなさそうな返事をした。

私はいつも通りの放送をして、最後の放送委員の仕事を終えた。

そして、何も言わないまま分かれ道で別れた。
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