桜の木の下で、また君を待っている
「山河くん」

私が名前を呼ぶと、彼は振り向いて一言、おめでとうございます、と言った。

「どこにもいないから、探しちゃった」
「三笠さんなら、最後にここに来ると思って、待ってた」

ザッと風が通り過ぎて、桜の木の枝を揺らす。
おもむろに、山河くんはその先端を折った。

「えっ、ちょっと何してるの?!」
「三笠さんが寂しそうな顔してたから。水につけておけば、花、咲くんじゃないですか」
「そうかもしれないけど……」

言いながら私がその枝を受け取ろうとすると、それは上に持ち上げられる。
そして、その枝にピンク色のリボンを結んでから私に手渡してくれた。

「卒業祝い。桜が咲いたら教えてくださいね」
「……山河くんも、ここの桜が咲いたら教えて。楽しみにしてるから」

あれ、なんでだろう。こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。
あっさりと、バイバイって言うつもりだったのに。

「約束ですか?」
「うん、約束」

どこか遠くで、私を呼ぶ華子の声がする。
私が歩き出そうとすると、後ろから声がした。

「桜!!」

私が思わず振り向くと、彼は微笑んで手を振る。

「咲いたら、絶対見にきて!!ここで、待ってる!!」

名前、呼ばれたのかと思ってびっくりした。
そんなわけない、よね……?

「……うん!またね!」

私は手を振り返して、校門に向かって歩き出した。
1本の、桜の枝を持って。
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