レジーナ・フルレ
「何だ……、これは……? ただの白色の花ではないか?」
 全員の注目が集まる中、側近が代わりに声を上げた。
「何って、花ですよ……! 彼が咲かせた花です!」
「わたしはちが」
 研究者が口を開いたのを、私は睨みつけて黙らせた。
 私は胸を張ると、花を持ったまま、国王に近づいた。

「如何でしょうか? 彼は花を咲かせたのです。それも、これまで存在しなかった新しい花を!」
 白色の花びらは中心に向かうにつれて、青色になっていった。花の中心部は青色のインクで着色したような、濃い青色に染まっていたのだった。
「彼は嘘をついていなかったのです。ですから、2人を解放して下さい」
 私は訴え続けた。すると、それまで黙っていた国王が玉座を立ったのだった。
「国王!?」
 慌てた側近が声を掛けるが、国王は聞いていない様子で私に近寄ってきた。
 そうして、私が持っている花を手に取ると、涙を流したのだった。

「これは……。この花は……!」
「王様?」
 私が首を傾げると、国王は首を振ったのだった。
「私の亡くなった妻を思い出す。私の妻は生まれつき身体が白色になる病気でな。髪も肌も真っ白だった」
「けれども」と、国王は涙を拭いながら続けた。
「幼少期に失明したとの事で、妻は義眼していたのだが、それが、深い青色だった……。そんな妻に見つめられるのが、私は好きだった」
 国王の妻である王妃は、この国が完成する直前に病で亡くなったと私は聞いた事があった。
 国王との間に、2人の王子を遺して亡くなったとも。

「妻は非常に愛に溢れた女性だった。私にも、息子達にも、惜しみない愛情を捧げてくれた……」
 私は目を細めたのだった。
「それなら、その花には『愛情』という意味を持たせましょう。名前も『レジーナ・フルレ』にして」

「王妃の花」という意味を持つ「レジーナ・フルレ」。
 その花言葉は、「惜しみない愛情」。

 この花には、この名前と花言葉が似合うような気がしたのだった。

「この花は貰えるのか……?」
「勿論です。王様に献上する為にお持ちしたのです。これから、こちらで量産出来るように研究します」

「本当は嘘だ」と、私は心の中で呟く。
 この花が完成したのは偶然だった。
 ハナを救いたい一心で、咲かせた花だ。
 量産は、まだまだ先の話だろう。

「それでは、私はこれで失礼します。彼女を解放してもらえますか?」
 私がハナを指すと、国王はハナと研究者を解放してくれた。
 私は呆然としているハナの腕を引っ張ると、この場を後にしようとしたのだった。
「ま、待ちたまえ!」
 すると、地団駄を踏んでいた側近が声を掛けてきた。

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