青い星を君に捧げる【壱】
「遅かったな」

「うん、家の人の話聞いてたら遅くなっちゃった」


リリィは決して“家族”ということはなかった。どこか線引きしてるような、そんなもの。

「あのね、明日から遠くにお出かけするから遊べないの。ごめんね」


「ふーん、そ」

「…さびしい?」


「んなわけあるか!」


隣に座っているリリィの肩を体重をかけて押した。リリィは無抵抗にコテンっと倒れる。


「どんくせ。お土産くれよ」


「うん、分かった」


言った通りリリィは三日間来なかった。会わなくなって4日。その日は大雨が降っていた。俺は玄関に置いてある傘を一本取って公園に行く。


傘に弾かれる水の音が響く。これは今日はリリィ帰ってきてても来ないよな、と思って滑り台の下に入る。


滑り台の下の地面にこの前リリィが描いた落書きは既に俺の足跡で消えている。


その時、激しい雨音の中で誰かが近づいてくる音が混じっている。そっと覗くと歩いてきていたのはリリィだった。傘もささずにずぶ濡れになっていた。


「どうしたんだよ!!風邪ひくぞ」


軽く腕を引っ張って滑り台の下に連れて行こうとするが動こうとはしなかった。その時俺は手に持っていた傘は開いたまま無様にも落ちていく。


「なんで泣いてんだ」

リリィの顔は濡れていた。雨のせいもある。だけどこいつは泣いている。


「…人を、殺したの」

「は?」


「ちがう…ちがうの!!やりたくてやったわけじゃないっ!!!」


リリィはその場に叫びながら崩れ落ちる。パニックを起こし呼吸も乱れている。俺はリリィの思い切り抱きしめた。


「わたしこれから遠くに行く。"あの人たち"から逃げるために」


温もりを求めるように俺の首に擦り寄った。『なんで殺したのか』『あの人たちとは誰なのか』聞きたいことは沢山あった。あったけど自分から聞くようなことはしなかった。


俺はリリィの手を引っ張って土砂降りの中走り出した。片手には落ちてしまった傘、もう片方には必死についてくるリリィ。


家にべしょ濡れのまま転がり込み、リリィを風呂場に押し込んだ。促されるまま彼女は風呂を使う。


「まずちゃんとあったまれよ!!」


その間俺はタオルでガシガシと髪を拭きながら2階の自室へ。机の引き出しを乱暴に開ける。


奥の方を手探り封筒を取った。中には今年もらったお年玉やらお小遣いが。全部抜き取って財布に突っ込んだ。


それから同じく引き出しに入ってるハサミ、ナイフ…と手当たり次第に机に並べた。

< 109 / 130 >

この作品をシェア

pagetop