青い星を君に捧げる【壱】
《side.リリィ》

その日は家のお手伝いさんに連れられてお父さんがいる方の家に帰った。夏なのに蝉の声は聞こえなくて、車のタイヤが雨を弾く音がひどく大きかった。天気予報では数日は大雨が続くらしく、蒸し暑い。


「おかえりなさいませ、百合の姫」


車から降りると数ヶ月前と代わり映えのない光景がある。玄関(と言っても家の敷地内にある別邸が私の今いるところ)にはこの“百合宮”。私が生まれてからずっと住んでいたところ。


「綺麗に手入れしてくれてるんだね」


「もちろんでございます。姫の好きな花でございますから」


私の侍女であるこの人は“卯ノ花 雅(ウノハナ ミヤビ)”。私を産んでこの世を去った母に代わって私を育ててくれている。


雅に手伝ってもらい簡単な浴衣に着替える。そして客間に人が来ている、と応対を任せられて客間に行くとそこには父の側近である阿久津 流水(アクツ リュウスイ)がいた。


「少し見ない間に大きくなられましたな…姫」


「流水さん!!」


嬉しさのあまり座布団の上に座っていた流水さん目掛けて飛び込んだ。かなりの勢いで突込んだのにちゃんと受け止めてくれる。


「流水さんだぁ!ふふっ」


流水さんは実の娘のように私を可愛がってくれる。まともに話したこともない父よりもよっぽど好きだ。


「百合の姫。一様より招集がかかっております。行きましょう」


流水さんは嫌そうな顔をする私を見て「終わったらケーキでも食べに行きましょうか」と言って私を抱き上げ客間を後にする。


「いってらっしゃいませ」


「うん、雅。またね」

流水さんの肩から顔を出して手を振る。流水さんは私とこうやって会う時は普段つけているピアスを外す。私がもっと小さい時に髪が絡まってしまったことがあるから。


「帰りは連絡する」


「承知いたしました」

玄関からさっき歩いてきた道を歩く。流水さんは背が高いから見える景色が違って面白い。


「今日はなんで呼ばれたの?」


流水さんが止まって、振動が伝わらなくなる。ぎゅっと私を抱く腕を強めた。


「どうしたの?」


「姫……どうか正気でいてください。あなたのせいではないのです」


「…?」


どうして流水さんが辛そうな表情をしているのかさっぱりわからなかった。


「リリィ、いい子にしてたらケーキ一緒に行ってくれるんだよね」


「はい。姫が無事でいてくれるならなんだってします。忘れないでください、私は姫の味方です」

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