青い星を君に捧げる【壱】
先ほどまでいた百合の宮も立派だったけれど、本邸は別格だ。

百合の宮同様和風の作りで、使用人の数は桁違い。使用人の他にも仕事で訪れてる人もいるから人の数が多い。


年に数回しか来ることがない私にとってここの地図を把握することはない。


「さぁ着きました。ここからはご自分の足で」


当主様、つまり私の父がいる部屋。私はこの大きな襖が大嫌いだ。開ければ血こそ繋がっているものの、私を見ない父。一瞬視線がぶつかればそれは心が凍るほどに冷たい。


「阿久津流水と百合の姫だ。面会を」


流水さんは襖の前に正座し向こう側にいるであろう女中に話す。少し経ったのち、ゆっくりとその襖は開かれる。

流水さんが横へと退けて私を中へと促した。敷居の前で正座をして頭を下げる。


「百合でございます」

「……入れ」

「失礼します」


大丈夫、習った通りに。間違えてはいけない。右足から敷居をまたぐ。


中央付近まで畳の縁を踏まないように歩みを進めて再び座った。後ろからは流水さんも入ってきていて私の少し後ろにいる。

上座には浴衣を着崩し、だるそうに書類に目を通す父の姿。


「ついてこい」


「?」

父の後ろをついて行く。こんなこと初めてだ。いつもは私が近くにいることも嫌うのに。


地下に続く暗く湿り気のある隠された階段を降りるとそこには鉄の臭い…鉄というか、これは血?


壁を見ればなにか黒いものがこべり付いている。奥にある電灯がチカチカと点灯した。見ると1番奥の壁に寄りかかっている男の人がいた。


不安になって父を見ると酷く冷たい視線をその人に向けていた。そしてその目のまま私を見る。父は棚に置かれていた黒い塊を片手に持ち、もう片方の腕で私を抱き上げた。


「これを持て、しっかりな」


「い、いや……いやだ」


この視点になってようやく父が何を持っているのか理解出来た。銃だった。

持つことを拒否しても父は無理やり私にその重く冷たいものを握らせた。銃口は力なく壁に寄りかかる男の方へ。


「ここを引くだけだ。やれ」


私が持つ銃を横から支える父。


「これがこの家に長女として生まれた者の運命(さだめ)だ。昔から長男、長女で継ぐ権利のある者はやらされる」


「百合の姫……」


流水さんが心配そうに私を見ていた。それでも助けてくれることはない。


「お前がやらなければ次は"妹"がこれをことになるのだ!!!!やれ!!!!!」


______________パァン


父が初めて私に触れてくれた日、それは私がこの手で人を殺した日だった。
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