青い星を君に捧げる【壱】

遊園地に着くと集合時間の確認がされ、その後すぐに自由行動となった。


誰と一緒に回るか、それともボッチになるか考える隙も与えずに彼方が私と黒鉄くんの手を引いて、杏理はどこかにフラッと逃げようとしていた風間くんの腕を無理やり引っ張り、バスの中からずっと言っていたジェットコースターに迷わず向かった。


その後も彼らに決して似合うはずがないだろうメリーゴーランドに乗って爆笑したり、杏理が嫌がる彼方をお化け屋敷に連れ込んだり…。


お化け屋敷が余程怖かったのか泣いている彼方に、笑い転げている杏理。その傍らでハンバーガーにかぶりつく風間くん。


「…楽しいなぁ〜」


ポロリと口から零れた素直な気持ちを、黒鉄くんが聞き逃さなかった。


「……抜けるぞ」


「…っへ?」


私が説明を求めるよりも早く、黒鉄くんは私の手を掴み3人の見える位置から逸れた。集合時間が迫る中、黒鉄くんは大きな観覧車に足を運ぶ。


「2名様ですね〜!」


「…ああ」「ちょっ!えっ!」


観覧車の扉が開けられ困惑する私の肩を押して先に入れると、すぐに黒鉄くんも乗り込みスタッフの人によって扉は素早く閉められた。


1度乗り込んでしまってはもう戻れるはずもない。既に座っていた黒鉄くんの正面に腰を下ろした。


空はオレンジ色に染まり、帰りが近いことを知らせていた。…3人は私たちを心配していないだろうか。あの3人に限ってそんなこと無さそうだけど。


海に少しだけ沈んだ太陽を見つめていると、窓に添えていた指に温もりが触れた。


「……冷え性…なのか?」


季節は春から梅雨の時期に近づいているのに、先程触れた冷たすぎる私の指先を心配したのだろうか。その指先を温めるように、ぎこちなく指先だけ黒鉄くんの大きな手に包まれた。


「そう、少しだけね」


「悪かった…楽しんでるのに連れ出して」


私の指先から目を離し、遠く夕日にフイと視線をずらした。なんだろうこの感じ…むず痒いこの距離感に私は柄にもなく戸惑っていた。


「平気だよ、ちょっと疲れてたとこだから。休憩できて良かった!黒鉄くんこそよかったの?私なんかで」


「……他の奴らだったら休めない。それと……名前、慎でいい」


「し、し…ん…??」


「そう、今度から名前で」


観覧車はだんだんと最高点に近づいてきた。おそらく翔陽高校の学生らしき人達が粒ぐらいに小さくなっていた。


「夕日、綺麗だね」


「……そうだな」

そういう慎から視線を感じて顔を向けると、視線が交わる。


「……こんな穏やかな日々がずっと続けばいい」


観覧車の高度はもう高くなく、スタッフの方の声が聞こえる。


「これからもよろしくな、波瑠」


夕日に照らされた彼の初めて私の名前を呼んだ瞬間だった。あの日見せてくれた笑顔を浮かべ優しく紡がれた。


スタッフの方の促しで観覧車から降りると、指先だけで繋がれていた手も自然と離れた。帰ろう、と3人にいつの間にか連絡してあったのか観覧車乗り場のところに彼らはいた。


「ずるい…」


去っていく後ろ姿に私はちょっとの文句しか出てこなかった。

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