青い星を君に捧げる【壱】
背から海底に沈んでいく。

『はーちゃん!』


横にはここにいるはずのない子。これが…走馬灯ってやつなのかな。


もがくこともせずに、その子を静観する。


もしも私がこの腕を動かせば彼女が消えてしまう。彼女を失いたくない。


お願い…だれも連れていかないで。


涙と思わしきものが海に溶ける。悲しみが泡となって私の口から出ていく。

ゆっくりと沈んでいく体と海の境が分からなくなり、一体化するようだ。


このまま死ねるならどうか……



____2年前。
あの頃、悲しみの沼に私が溺れていたとき。


バキッ、ゴンッ

「グッ、ツキ!!!てめぇはバケモンか」


「……なんだよ今更気づいたのか?バーカ」


私が白虎総長、月桂樹として西で暴れていた頃。前総長から受け継いだこの族を護るためだったらなんだってした。


少し勢力が拡大して調子乗ってる族、白虎を敵視している組。いつからか、私はバケモノ扱いされていた。


アイツが遺したものをどうしても護りたかった。生きた証を。


白虎の倉庫に着くまでに疲れ果てて路地裏に倒れ込んだ。体についた赤は全て相手のもののはずなのに、全身だるい。


「だ、大丈夫ですか?」


僅かに顔を上げて見れば、近くのお嬢様学校の制服に身を包んだ女。…ただのお人好しか、それとも馬鹿か。おそらく両者。


「きゅっ救急車、呼びましょうか?」


怖いなら話しかけなければいいのに。月桂樹は世間的には男だと思われている。だから今も多分あたしは男に見えてるはず。


返事をしないあたしを見てなのかスマホを取り出してどこかに電話をかけようとしている。


「……ほっとけ。俺は無傷だから」


さっきまで指1本も動かせない気がしていたのに返事をしたからか、女はパァと目を輝かせあたしと目線を合わせるためしゃがみこむ。


「どこら辺に住んでるんですか?歩けます?」


「触るなッ!!!!」


汚れなんて知らないようなその綺麗な手で赤に染まったあたしに触れちゃいけない。


「…っ、おい」


なのにあたしの制止を振り切り腕を掴んだ。


「こんな治安悪そうな所に放っておけるわけありません。私のワガママだと思ってどうか」


思い切り力を込めてあたしの体を彼女は支えた。何故彼女がこんな路地裏にいたのか。


「…お前名前は?」


「私の名前は……

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「プハッ、テメェ死ぬ気かアホッ!!!!」


「ゲホッゲホッ…かざ、ま…くん」
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