青い星を君に捧げる【壱】
「明日歌のご両親、あれから引っ越したの」


新幹線に乗って明日歌と杏里の地元にきた。昨日、明日歌のお母さんに電話を入れて事前に行くことを伝えておいた。


「ここが今の明日歌の家。呼び鈴押すよ。風間くん、行儀良くしてね」


「おい、誰に何してって??」

___ピンポーン


はーい、とインターフォン越しに明日歌のお母さんの声が聞こえる。杏里は緊張からかその声を聞いて表情をこわばらせる。


「杏里、そんな硬いカオすんな」


むぎゅーっと風間くんが杏里の頬を掴んで伸ばす。それはそれは手加減なしに。風間くんが手を離すと杏里のほっぺは見事に赤くなっていた。


「ははっ!それでいい!!」


「なぁーにがイイのさ湊っ!杏里これから大事な面会なのに」


___ガチャ

風間くんと杏里そして彼方がわちゃわちゃと言い合ってると玄関が開き、暖かな笑顔を見せる明日歌のお母さんがいた。


「おばさん、こんにちは。すいません騒がしくて…」


「いいのよ、たくさん人が来てくれた方があの子も喜ぶもの」


さあ上がってちょうだい、とおばさんに招かれる。さすがの風間くんもこの時にはもう静かになっていた。


家に上がり、リビングにお邪魔する。それぞれソファに腰掛け、おばさんは紅茶をテーブルに準備してくれた。


「それで波瑠ちゃん。昨日言ってた子っていうのは…」


「紹介します、彼が明日歌の彼氏の」

「久我杏里です。挨拶がこんなに遅くなり申し訳ございません」


隣に座っていた杏里が立ち上がって頭を下げる。おばさんは驚いて杏里に座るように収めた。それでも杏里は座ろうとせずに頭を下げ続けた。


「久我くんの話は明日歌から沢山聞いたわ。あなたがいてくれたおかげで明日歌は幸せだった。生きる希望をくれた。ありがとうね」


おばさんは杏里の頭を優しく撫でる。


「もういいのよ、泣いて。久我くんは十分頑張った……そうでしょ?」


杏里は肩を小さく震わせた。そして一つ、また一つと涙が落ちる。髪に隠れて表情こそは見えないが、彼が涙しているのがわかった。


「……っ、すいません。あ、すか…。っああ、あああああああああ」


杏里は膝から崩れ落ちて床に頭を擦り付けるほどに泣き叫んだ。昨日よりももっと、泣きじゃくっていた。


感情が崩壊するように大声で。いつものチャラけた彼の姿はそこにはなかった。一人の愛する者を失った男だった。
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