青い星を君に捧げる【壱】
「あれ?みんななーに騒いでるのかと思ったらバーベキューしてんの!」


「おっ、杏里!遅かったじゃねぇか。お前の分の肉も取ってあるぜ」


「え、英治さんまで…これはどういう」


これは慎が提案した杏里へのサプライズ的なものらしい。現在倉庫のシャッターは全開でオレンジ色の空の下バーベキューが開催されている。


ご店主まで呼んでいたとは思わなかったけど、おかげで肉以外に美味しい料理が堪能できている。


「あ、杏里!おかえり!はいこれ、杏里のお皿」


彼方が帰ってきたばかりで状況が飲み込めていない杏里をさらに置いてきぼりにするように皿を押し付ける。



「杏里さん、遅かったすね!」
「早くしないと肉無くなっちゃいますよ」
「おかえりなさい!杏里さん」


杏里の登場に下っぱたちも気づき出したのか口々に言い出す。杏里がどうしていたのかも、過去のことも幹部しか知らない。


それでも察してくれている子たちがいるのか明るく挨拶してくれた。


「おかえり、杏里」


ここがあなたの居場所なんだよ、と伝えたくて。でもやっぱりいつもの言葉しか思い浮かばなかった。


「みんな…ただいま!!」




杏里にとって辛いことがあった夏だったと思う。だけどそれだけでこの季節を嫌いになってほしくなかった。


こういう小さな思い出が積み重なって、いつか必ず苦しい記憶は塗り重ねられるから。


だからどうか、どんな記憶も覚えていて。時が経てばきっと、その記憶を持っている意味も変わるから。
< 89 / 130 >

この作品をシェア

pagetop