青い星を君に捧げる【壱】
昔から泊まりに来た時に使わせてもらっていた部屋にさっきおじいちゃんが持って行った荷物が置いてあった。


「夕飯までまだあるからゆっくりするんだよ」

「おばあちゃん、ありがとう」


今日はずっと気張りっぱなしだったから疲れた。東よりも暑い気がするし。


鏡の前に立つと心なしかいつもより疲労が顔にも出ている。


「…もう誰に会うでもないし取るか」


絶対に取れないように固定してあるから取るのにも苦労する。染めてしまおうかとも思ったけど、でも容姿だけでも“私”を残したかった。


____ファサ

最後のピンを取り、“それ”を持ち上げると本当の私の姿が現れた。


「とったのか…ウィッグ」

「うん、ここにいるみんなは知ってるからね。あっついしこれ」


鏡に映るのはさっきまでとは違う私。茶髪ではなくブロンドヘア。これが私の本当の色。手に持っているウィッグを棚にしまった。


「私ちょっとその辺散歩してくる」

「おう。じゃあ……これ被ってけ」


匡の荷物から出されたのはキャップ。これよく匡が変装するときにかぶるやつだ。


「へへ貸してくれるの」

「顔ぐらいは一応隠しとけ」


まだ化粧までは落としてないから顔の雰囲気もいつもと違うんだけどなぁ、と思いながらもありがたく借りた。



散歩コースはいつも気ままなんだけど、行き着くところはいつも同じ。その場所が何故だか好きなんだ。

海の見える丘。そこが私の特別な場所だったりする。


沈み出した陽に照らされて夕暮れ色に染まる海が綺麗でその場で足を止めた。この世界で1番綺麗に夕陽が見えるのはここなんじゃないかな。


「は…。__ぃ?」


誰か来たのかな。それでも海から目を逸らすのが惜しくて振り返ることはしなかった。


だんだんと近づいてくるような気配がして、振り返る。数メートル先には、彼はいた。


「リリィ、リリィなのか!?」


そこにいたのは__湊だった。なんで彼がこんなところにいるの。それにその名前…。


加えて最もマズいのは今の私の格好。今はキャップで顔を隠しているし逆光だから顔までは見えてないはず。


だけど髪色は見られた。夕陽に輝いているこの髪を。


駆け寄ってくる湊を見て咄嗟に逃げるように反対側の階段を駆け降りる。


「待て!!待ってくれ、頼むから!」
< 99 / 130 >

この作品をシェア

pagetop