悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 わたしはお決まりの言葉を唱えてからスプーンを手にした。
 小さく刻まれた野菜の入ったコンソメ味のスープが胃に染みわたる。

「ゆっくり食べた方がいいわ。あなた、三日ほど眠りこけていたのだから」
「三日も?」

 さすがに驚いて、素っ頓狂な声を出してしまう。
 そうしたら変なところにスープが入ったようでごほごほと咳をする。

「ああ、ほら。まずはゆっくり食べなさい」

 涙目で頷いて水を飲んだ。
 それからゆっくりスープを味わって、パンやチーズを咀嚼する。

 スープは三種類くらい用意されてあって、コンソメ野菜スープの次にかぼちゃのスープを皿にすくって味わった。パンはどれもふわっふわで、この世界では高級品とされている小麦の白い部分だけを使って焼かれた白パン。

 お腹を満たしたところで食後の紅茶を飲んだ。
 ようやく落ち着くことが出来た。頭に糖分が回ってきたのか、お腹が満たされて満足をしたのか、落ち着いたわたしは本題に入ることにした。

「ちなみに、どうしてわたしが今ここにいるのか窺ってもよろしいですか?」

 一番知りたいのはそこだった。
 どうして公爵家の家人でもなく、国境沿いの村でもなく、わたしは竜と、それも黄金竜の前にいるのか。
 なぜにこうなったと聞きたい。

「まあ当然の質問よね」
 わたしが食べる間、ずっと見守ってくれていた美女がやや目じりを下げる。

「それはねー」
「わたしたちがおねーちゃんを見つけたからー」

 はいはーいとちびっ子竜二人(それとも匹? 頭?)が話に割って入る。

「子供たち、少し黙っていてちょうだい」

 美女がふたたび子供たちをたしなめる。
 二人は「うー」とか「でもぉ」とかちょっぴり不満そう。

 世の母親の常として彼女もそれらの文句を聞こえなかった振りをしてやり過ごすことにしたようで、わたしのほうに目を合わせる。

「すべての原因はわたくしの子供たちね。ちょっとね、最近やんちゃが過ぎていて」
「要するに、二人で勝手に人里に降りてきみを攫ってきてしまったんだよ」

 女性の声に続いて、耳に心地よいバリトンボイスが聞こえた。

 ぱっと現れたのは女性と同じ金髪の男性。年の頃は隣の女性と同じく二十代半ばといったところ。しゅっとした顎に切れ長の瞳と、十分に美形な姿だが、この登場の仕方と話し方からしたら間違いなく竜だ。

 人里ってなんですか。いやまあ人里だよね。竜からしたら。
 わたしが口をパクパクとさせていると、男性が説明をした。
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