悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 ミゼルカイデンは大マジな顔をずいっとわたしに近づけた。
 う、美形が近い。しかもマジな顔。

 心配してくるのはありがたいけど、こっちにも事情があったわけで。しかもうちの家人たちはわたしが死んだふりをしているのを知っていたからあのまま土の中、っていうことにはならかったはず……って、全部正直に言った方がいいかな。

「そ、そんなに強い毒でした……?」

 わたしはそろりと尋ねてみた。
 黄金竜の夫妻がそろって首を縦に振る。

「あー……あはは」

 まあ王都のもぐりの薬師(怪しさ大爆発な人しか見つからなかったんだもん)がつくった薬だからね。あの人も効能は保証しないとかごにょごにょと言っていたし。

「きみに解毒を施すのが少しでも遅かったら本当に死んでいたかもしれない。毒を盛られた人間の女の子を元の場所に戻すことも出来ないからね。一応は私たちの住まいで起きるのを見守ることにしたんだよ」
「ええと。ありがとうございます」

 どうやらそれなりにまずい状態になっていたらしい。
 一か八かの薬に頼ってみたら、悪い方向に天秤が傾いたけど、拾われた先の黄金竜がいい人(竜だね)たちでよかった。

「幸いにこの森には色々な力を持った精霊たちが住んでいるからね。私たちの魔法と彼らの力と、あとはきみの体力次第といったところだったんだ」
「早く起きないかなってずぅっと待っていたんだよ」

 わたしのよこににゅっと黄金竜の子供が顔を寄せてきた。
 声からすると、これはフェイルリックのほう。

「ほんとうにありがとうございました。ちょっと色々とあって、ああいうことになっていたところ、ひょんなことから拾われて助かりました」

 わたしは立ち上がって丁寧にお辞儀をした。
 やっぱり怪しげな薬に手を出してはいけない。一つ学んだ。いや、知ってはいたけれど人には人生の内で一度や二度、背に腹は代えられないという状況があるわけで。

 わたしにとってはあのときがまさにその状況だったというわけで。
 とりあえず、無事に生還を果たしたわけだし、考えるべきは今後のことだろう。

「いいえ。こちらのほうこそ勝手に連れてきてしまった負い目もあるし。それで、あなたこれからどうするの? わたくしたち、あなたの身元について少し調査したの」

 レィファルメアの言葉にわたしは二の句を継げなくなる。
 ちょ、どうしてそういうことを……するかな……。
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