悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 わたしは、ティティが無条件にわたしを信じてくれたことが嬉しくて、胸の奥がジーンとしてしまう。

「ねえ、奥様!」
「ええ。わかっています」

 レイアは頷いた後、部屋の奥へと進んで行き天鵞絨の布の上に置かれていた楕円形の水晶、もとい竜の卵を大事そうに抱えた。
 そしてヴァイオレンツに向き直る。

「彼女は、わたくしの大事な友人です。リーゼロッテを身代わりにすることは許しません」
 それがたとえこの国の王太子の言葉でも、と彼女は続けた。

「ひどいわ! あなたはここにいるリーゼロッテがわたしにした仕打ちを知らないからそんなことが言えるのよ」
 フローレンスが叫んだ。

「そうよ、今回のことだって本当はリーゼロッテのせいなのよ。彼女に脅されてアレックス先生もわたしも、仕方なく竜の棲み処に入ったのよ。ねえ、ヴァイオレンツ様。あなたはわたしの言うことを信じてくれますよね?」
「そんな世迷言を誰が信じるというの」

 レイアは短く吐き捨てた。
 わたしもレイアと同じで、それはちょっと無理があるんじゃあ、と思っていたけれど。

「そうだったのか」

 ヴァイオレンツ様はフローレンスの頬に両手を添えた。
 瞳をうるうるさせたフローレンスはこくりと頷いた。

「魔法学園にそこまでの恨みがあるのか、リーゼロッテ。ベルヘウム家の人間としての矜持はもはや無いのか。嘆かわしい」
「えっ。ちょっと。わたしがこの二人をおびき寄せる意味もないし、そんな証拠どこにもないでしょう! ていうか、何を根拠に」

 まさかフローレンスの言葉一つでここまでヴァイオレンツが馬鹿になるとは思わなかった。
 こいつ、頭は平気か。

「それは貴様がフローレンスのことを憎んでいるからだろう。誇り高い貴様は私がフローラに心惹かれたことが許せなかったんだろう。しかし、無理もない。貴様みたいな傲慢で他者を顧みない氷のような女に、どうして心が許せようか」

 ヴァイオレンツの言葉を聞いたティティがわたしの耳元に顔を寄せてきて「今すぐにあの男を真っ黒にしちゃってもいいですかぁ?」と聞いていた。

「いや、さすがにダメだから」
 わたしは小さく首を振った。

「リジーは連れて帰えるわ」
 レイアが首を振る。

「約束が違うわ!」
「もともと、卵を盗み出したのはあなたたちでしょう。何が約束か、己の胸に手を当てて聞いてみなさい」
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