悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 わたしの疑問に、頭の中である答えが点滅する。クイズ番組で言うなら早押しピンポーンってランプが光るアレ。

「別に他意は無かったの。ただ、いつもタイミングが悪かっただけで」
 わたしは慎重に言葉を紡いだ。

「そうね。いつもリーゼロッテ様は何か理由をつけてわたしの前に現れなかった。勉強が忙しいとか、宿題がまだ終わっていないとか、レポートの提出期限がどうのとか。まあ、それもいいように利用させてもらったけど」

 でしょうね。わたしは乙女ゲームのヒロインと関わり合いになりたくて逃げ回っていたけど、逃げれば逃げるほどわたしが庶民の出のフローレンスを仲間外れにしているとか、一緒にいたくないって言っているとか、勝手に話が肥大して尾ひれがついてそれが真実になっていった。

「ここであなたの作ったお菓子を食べないと、またわたしはフローレンス様の慈悲を振り払ったとか、この期に及んでフローレンス様を非難したとか色々と言われるのかしら」

 わたしは彼女の対面に座った。

「え、やあだぁ。そんな風に受け取ってもらいたくて言ったんじゃないのに」

 フローレンスは慌てて両手をぱたぱたと振った。
 とりあえず、わたしは彼女の持ってきたクッキーに手を伸ばした。
 何かしていないと、間が持たない。

「おいしい?」
 わたしがクッキーを咀嚼していると、彼女が聞いてきた。
「ええ」
 素直に美味しかったからわたしは頷いた。

「料理の練習結構たいへんだったのよ。元から料理のスキルが付いているわけでもないから」
「わたしも小さいころからお菓子作りは頑張ったわ」

「あら、あなたもそういう努力はするのね。わたしは……あんまり好きでもなかったけれど、一応将来ヴァイオレンツ様に見初められたかったし。まあ頑張るか、って思って作り続けたのよ」

 フローレンスの言い方がさっきから妙に引っかかる。
 それはきっと、わたしが転生者だから。

「せっかく、フローレンスになったのに。ヒロインになれたのに。この世界はちっともわたしの思い通りにならない。ねえ、あなたどうしてちゃんと悪役令嬢をしてくれないの?」

 フローレンスの言葉にわたしの呼吸が止まった。
 いま、彼女ははっきりとわたしのことを悪役令嬢だと言った。そんな言葉、この世界に無いのに。
 わたしは、自分の考えが当たっていたことを確信する。
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