悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 優雅に背もたれに体重を預けて、それから足を組んだ。
 口元にはヒロインらしからぬ意地悪な笑み。どっちが悪役だよ。

「ちゃんとね、あなたを断罪してあげる。シュリーゼム魔法学園の被害は甚大よ? 建物壊れちゃったし。幸いに重傷者死人はいなかったけれど。全部あなたの罪にしてあげたから」
「あれはあなたとアレックス先生の罪でしょう」

「いいえ、違うわ。あなたの罪。わたしが泣けばヴァイオレンツ様はわたしの味方になってくれるもの。さすがはゲームのメイン攻略対象よね。彼はフローレンスにめろっめろなの。ゲームのシナリオながらすごいわ」

 フローレンスはけらけらと笑った。
 それはもう楽しそうに。彼女はわたしのことを役立たずな悪役令嬢としか見てない。

「あなたは、あなたにとってはこの世界はおもちゃのようでしかないのね」
「んー、リーゼロッテ様にはわからないかもだけどぉ。この世界はわたしを中心に回っているの。だから早いところ変なバグは取り除いておかないとね。わたし困っちゃう」

 フローレンスは肩を揺らした。
 それからカップの中のお茶をくいっと飲んで、ローテーブルの上を片付ける。持ってきたバスケットの中にお菓子の残りやカップをしまって、彼女は立ち上がった。

「じゃあね。断罪イベント楽しみにしていてね。もちろん、ベルヘウム公爵家は今回のことにもノータッチだから。薄情な両親を持って、あなたも可哀そうね」

 フローレンスはひらひらと手を振ってから扉に手を掛けた。
 一か八か、逃げだしてやろうかなんて考えたけど。

 わたしはすぐにその考えを打ち消した。
 逃げたって、魔法を封じられた今のわたしにできることなんてないに等しいし、それに王宮から逃亡しても、今度こそ路頭に迷うだけ。女一人でできることなんて限界がある。

 わたしは一人取り残されて、ベッドにあおむけになった。

「あーあ……」
 ついてないなぁ。
 まさかフローレンスも転生者だったなんて。

◇◆◇

 リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウムの断罪イベントは王宮の庭園で行われることになった。
 投獄されてから一週間ほどが経っていた。

「どうせならさっさとしてくれればよかったのに」

 はあ、とわたしはため息を吐いた。
 両腕には魔法封じの腕輪。
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