悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 乙女ゲームに転生したという前世の記憶を取り戻す前のわたしは、そのほかの貴族のご令嬢たちと同じように麗しいヴァイオレンツに淡い恋心を抱いていた。それこそ初恋だった。

 この人のお嫁さんになりたい、だなんて小さいころは無邪気に言っていた。
 今となっては完全な黒歴史だけど。それこそ無邪気に高慢な公爵令嬢をやっていたわ……。

 記憶を取り戻してからは、徐々に前世の人格が前に出てきたのと、ちょっと一歩引いた視線でこの世界のことを見るようになった。わたしとヴァイオレンツが結ばれることなんて絶対に無いことがわかっていたから、彼への恋心は散っていった。というか冷めていった。

「きみから結婚の約束を無しにしようとは言わなかったのかい?」
「家と家とのつながりなので、わたしから言っても父に一蹴されるだけです。現にシュリーゼム魔法学園に入学したくないってやんわりと伝えたときはめちゃくちゃ怒られましたし」

 ベルヘウム家の現当主、わたしの父は典型的な貴族の人間だ。特権階級の人間であることが誇りのような人間で、彼の根回しによってわたしはシュタインハルツ王国の、未来の国王の婚約者になった。

 前世の記憶を思い出したわたしは悪役令嬢幽閉ルート回避のために、そもそもシュリーゼム魔法学園ににゅうがくしなければよいのでは? と思って、動いてみたけれど結果は惨敗。父はめちゃくちゃ怒った。

 シュリーゼム魔法学園に入学する、ということがまずシュタインハルツの上流階級でのステイタスだから。

「それで、その元婚約者は新しい恋人と逢瀬を楽しむのにきみのことが邪魔になって、きみに毒を盛ったっていうことかい?」

「いえ、それは違います。殿下はわたしに白亜の塔という魔法使いの牢獄行きを命じたんです」
「白亜の塔?」

 黄金竜の夫妻がそろって復唱した。

「白亜の塔というのはシュタインハルツの王都の外れの森に立つ白い塔で。魔法の罪を犯した者が入れられる、魔法使い専用の牢獄です」

 罪を犯した魔法使いはその罪の重さによって入れられる牢獄が変わる。
 もっとも重い罪を犯した人間は白亜の塔へ送られ、魔力を吸い取る腕輪をはめられる。そして、魔力を根こそぎ奪われる。奪われた魔力は王宮の結界補強のために使われる。
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