悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 一応の身支度はさせてもらったけれど、それでも豪華可憐とは程遠い。シンプルなドレスに髪の毛は下したまま。化粧は、まあしなくても一応は美人か、わたし。なにしろそういう設定の元に生まれついたし。だから自慢じゃないよ。

 わたしが連れてこられた庭園には王族やら貴族やら、結構な人数が揃っていた。
 彼らは庭園に設えられた椅子に腰を下ろしている。

 主催はヴァイオレンツらしい。彼もまた、一団高くなった段の上の椅子に座っている。その横には着飾ったフローレンスがいる。

 髪の毛はふんわりとゆるく結って、花が飾ってある。ドレスは華美ではないけれど、品の良いレースで袖と裾を飾っている。彼女は、わたしを見て、ゆるく笑った。その笑みに悪意を感じるのはわたしの性格がひねくれているから、かな。

 わたしは立ったまま中央へ。
 周りには衛兵。貴族たちの好奇な視線を感じる。こういう衆人環視は慣れないなぁ。みんなわたしのことを内心嘲笑しているのが分かるから。そのくせわたしがそっちを見ると目を背ける。

 けれど、さすがに国王夫妻はいなかった。ついでにうちの両親も。

「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウム。今からそなたの断罪を始める。まずは、罪状から伝える」

 ヴァイオレンツが立ち上がり、一歩、二歩とわたしの方へ進み出る。
 わたしは開き直ってまっすぐに彼を見つめる。

 相変わらず美しい顔をした元婚約者は、にこりとも笑わないで淡々とわたしの罪状を述べていく。
 フローレンスへの嫌がらせの数々。

 そして、先ほど起こった黄金竜の卵窃盗事件の黒幕がわたしだということ。
 それを朗々と口に乗せていく。

 あらかじめ聞かされていたのか、衆人たちはさして驚きもせずにヴァイオレンツの言葉を聞いている。

 彼はわたしの罪状を述べたあと形式的に「異論はあるか」と聞いてきた。
 わたしはヴァイオレンツを睨む。

「わたくし、リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウムは、フローレンス・アイリーンを害そうしたことなど、一度もありません」
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