悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 つうか、こんな男誰が好きになるもんか。いいのは顔だけじゃない。

 性格は絶対にレイルの方がいいし、冷たい雰囲気の目の前の男よりもレイルみたいに明るくてさっぱりしていて、双子とも楽しそうに遊ぶ彼の方が断然にいい。

 あーあ。
 彼の笑顔を思い出しちゃったら、さすがに堪えるなぁ。

 最後に、レイルに会いたかったかも。それで、可愛くない態度取っちゃって、ごめんねって言いたい。

「ヴァイオレンツ様。リーゼロッテ様は、強がっているだけなのですわ。だって、ヴァイオレンツ様はこんなにもかっこよくて素敵なんですもの。あなたの愛が自分に無いのを知って、ただ強がることしかできないんです。許して差し上げましょう」

 トコトコと、王太子の隣にやってきたフローレンスが憐れみを交えた笑みを浮かべている。
 うわっ。その勝ち誇った顔、めっちゃムカつく。
 やっぱこの子性格悪いわ。

「ああフローラ。きみは優しいな」

 え、それは優しいとは言わないよ。ただ意地が悪いだけ。
 たぶん、男には分からないんだろうけど。


「いいえ。そんな、こと。ないです」
 ヴァイオレンツとフローレンスがしばし見つめ合う。
 満足した二人はこちらに向き直り、それからヴァイオレンツが声を出す。

「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウム、貴様には今度こそ、白亜の塔送りを命ずる!」
 周囲からざわめきが生まれた。

「白亜の塔でとくと反省するがいい。己の行いを」
 彼の宣言が、この茶番の終了となって、人々が動き出そうとしたその時。

「殿下! 客人が今すぐに会いたいと仰せつかっております!」
 兵士が数人ヴァイオレンツの方へ駆けこんできた。

「今大事な話の途中だ。後にしろ」
「しかし! 相手は―」

 兵士はヴァイオレンツにのみ聞こえるように小声で話し始めた。
 ヴァイオレンツは瞬きをして、兵士と二三言葉を交わす。
 王宮から庭園へと人が数人こちらへ向かってきた。

「事態は緊急を要するゆえ、先に上がらせてもらった」

 なにか聞き覚えのある声が聞こえたわたしは、声のする方に顔を向けた。
 先頭を歩くのは金茶髪に青灰色の瞳をした、まだ年若い青年。

 いつもの騎士装束ではなく、略装ながらも宮殿服に身を包んでいるのはわたしもよおく知っている顔で。というか、レイルで。
 なんか偉そうに背後に従者らしき人を何人も付き従えているし。
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