悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 そしてその奥ではシュタインハルツ側の役人っぽい人が慌てて付いてきている。

「ゼートランド王国の王位継承者が一体何の用で、このような宮殿の奥まで。しかも今は罪人の裁判途中。緊急の要件とはなんだ」

 ヴァイオレンツはすぐに王太子の顔を取り戻し、この場に闖入したレイルの方へ歩みを向ける。

 つーか、いま。
 王位継承者とか言いました?
 え、ちょっと待って。どういうこと?

「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウムの裁判だと聞いているが、異議申し立てにやってきた。とあるご婦人から助けを求められた。リーゼロッテを救ってほしいと」

 レイルがよどみなく答える。
 ヴァイオレンツは反対に黙り込む。

「ちょっと待って。異議申し立ても何もないでしょう。ここにいるリーゼロッテ様は、竜の卵を盗み出した張本人よ。彼女が黒幕になって、わたしを陥れようとしたのよ!」

 フローレンスが会話に割って入る。
 他国の王太子だろうと気にしないらしい。

「リジー、それは本当?」

 レイルがわたしのほうへ近づいてくる。誰も彼を止めようとはしない。いや、できない。
 彼がわたしの目の前にやってきた。

 わたしは下を向いた。
 どうして、レイルがこの場にやってきたの。さるご婦人ってレイアのことでしょう。
 ってことはレイアはレイルがゼートランドの王子様だってこと知っていたわけね。

「あなた、王子様だったのね」
 わたしはどうでもいいことを言った。いや、どうでもよくない。一応確認しておかないと。

「あ、まあ。そうだな。アウレイル・シュテウン・ディル・ゼートランドっていうのが俺の本名」
「アウレイル様」
 そっと呟いてみるけれど、なんだか慣れない。

「いつものようにレイルでいいよ」
「よくないと思いますけど」
「この場合、敬語もいらない」
「それ、今必要な会話です?」

「敬語」
「うっ……」

 レイルは通常運転で、わたしのほうが拍子抜け。

「それで、彼女の言っていることは本当?」
「まさか。わたしがそんなことするわけないでしょう。せっかくいろんなしがらみから解き放たれたっていうのに」

 わたしは間髪入れずに答えた。
 その答えを聞いたレイルがくっと笑い出す。

「分かっているって。犯人が誰なのかはレイアたちが見せてくれたし」
「なによ、もう」
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