悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「でも、リジーは優しいからそこにいる女を庇うかもしれないだろう?」
「わたし、さすがにそこまでお人好しじゃあないわよ」

 わたしは短くため息を吐いた。
 さすがにそこまで聖女にはなれない。

「あ、あなたどうしてリーゼロッテを庇うのよ! しかも、ゼートランドの王子ですって? なにそれ、そんなのありえないっ! だって、そこの女は悪役令嬢なのよ」

 わたしたちの会話に焦れたのか、フローレンスがレイルに向かって吠えた。
 焦った彼女に冷たい視線を送るレイル。
 わたしの知っているレイルとは違う、王太子の顔をしている。

「それは私がここにいるリーゼロッテ嬢が竜の卵を盗んだ犯人ではないと知っているからだ。証拠が欲しいというならば今すぐに見せよう」

 彼がそう言うと、庭園の空に光が差した。
 魔法の光だ。魔法陣が空中に浮かび上がる。その中から、黄金竜が四頭姿を現す。

 えっと、まさかこれって。

「双子が騒いだから一家全員おでましってやつだ」

 レイルがわたしにだけ聞こえる声で呟いた。
 ああそうだよね。
 フェイルとファーナが大人しくお留守番、してるわけないよね。

「よく二人とも双子の同行を許したわね」
「社会勉強というやつだ」

 どんな勉強だよ、それ。

 まさかの黄金竜の登場に会場にいた人間に動揺が走る。
 まさか結界が。王宮の結界が破られるとは。黄金竜が四頭も。どうして。

 たくさんの声が風に乗って聞こえてくる。
 彼らは一斉に立ち上がり、それから黄金竜の家族に視線を奪われる。小心者の人は会場から逃げようとすらしている。

「いや、さすがに人間の王宮に張られた結界を突破するのは骨が折れたよ」
「あら、夫婦で愛の共同作業も素敵だね、とか言っていたのに?」

 ミゼルとレイアはいつもの森の中と同じなノリで軽口をたたき合う。

「リジー、助けに来たわよ」

 レイアが人の姿になった。
 金髪に金目のどこか人間離れした雰囲気を醸し出す、美しい美女に変わったレイアに貴族たちの目が釘付けになる。

 ここにいる貴族たちは全員が魔法使い。
 魔法を使えるといっても黄金竜に出会ったことがある人はそうもいない。何しろ、黄金竜は竜の領域に住んでいて、滅多に人の前に姿を現さないから。

 そんなことお構いなしなレイアは私に向かってぶんぶんと手を振った。

「えっと……」
< 154 / 165 >

この作品をシェア

pagetop