悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 ここでレイアって名前で呼んでもいいのかな。
 このあいだティティは彼女のこと、奥様って言っていたくらいだし。

「黄金竜の奥様、どうしてここに?」
「あらいやだわ。わたくしのことはいつものように、レイアって呼んで頂戴。いいこと、わたくしたちが来たからにはもう安心安全よ。黄金竜を味方につけたあなたは最強だっていうところをここにいる人間たちに見せつけてあげなさい」

 あ、自分から名前明かしちゃうんだ。
 レイアはにっこりとわたしを見つめてから黄金竜のままのミゼルと頷き合う。

「さあ、人間たちよ。あの日の真実を見せてあげる。この魔法、ちょっと大変なのよ。だから、よぉく見ていなさい」

 ふふっといたずらっ子のように笑い、レイアとミゼルは一緒になって竜の言葉を紡ぎ出す。
 知らない言葉は歌のようにも聞こえる。

 優しい声が空気を震わせる。声に合わせてきらきらと魔法の粒がレイアたちの周り集まっていくのが分かった。

 人々は竜の使う魔法に目が離せない。

 二人の声は独特の抑揚があり、まるでデュエットのようでもあり、耳に心地いい。
 ヴァイオレンツもフローレンスも、彼らを守るように取り囲む兵士たちも、その他大勢の貴族たちもただ、目の前で紡がれる魔法に視線を奪われている。

 魔法が水を呼び込む。
 大きな薄い楕円の形になった水が映像を映し出す。
 映像には黄金竜の姿。背景は暗い洞窟。これはルーンだ。

 ルーンが卵を守っているところ。
 そこに、人間が二人やってきた。マントを羽織った旅装束の若い男女。

 アレックスとフローレンスの二人は魔法の光を手元に持ち、ルーンに攻撃を仕掛ける。アレックスの急襲にルーンが卵を庇う。

―フローラ、卵を!―

 ルーンが魔法を繰り出す。
 しかし、卵があるせいか、それとも弱っているせいか竜の魔法にしては弱弱しい。

 アレックスがルーンの目の前で閃光を放つ。
 目元がくらんだルーンの一瞬のスキをついてフローレンスがルーンの懐から竜の卵を取り出して、抱えた。

―先生、とったわ!―
―よくやった。さあ、早く逃げるぞ―
―ええ―

 あの日、何が起こったのか。それをしっかりと映し出していた。
 鮮明な映像に、声。
 フローレンスは目を見開いた。
 水はそれからの二人も映し出す。

―これでわたしは竜の乙女になることができるわ―
―気が早いな、フローラは―
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