悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
―だって、ずぅっと憧れていたんだもの。わたしは精霊からも竜からも、みんなに愛される存在になるの―

 森の中。フローレンスとアレックスは走りながら会話をしている。
 やがて頭上から魔法の攻撃が迫ってくる。

―しつこいわね―
―森を抜ければアルマン村に入る。そこまでいけばあとは大丈夫だ―
―早く王都へ帰りましょう。早く卵を孵したい。それで、わたしがこの子を育てるの。竜の乙女になるために―

 ルーンが追い付いたのだ。二人は魔法をよけつつ、アルマン村へと非難する。
 そこで待っていた他の人間たちと合流して二人は別の人間をおとりにして移動魔法を使って王都へと戻ってきた。

 映像はそこで終わった。

「さあ、これでもリーゼロッテが真犯人だと言うのかしら?」

 レイアが手を挙げると水が散らばる。
 ぴしゃんと水が地面に降り立った。水しぶきの一部がこちらにも飛んでくる。
 頬にかかったそれを、レイルが指で拭ってくれた。
 どうでもいいけど、ちょっと馴れ馴れしいんじゃない?

「あんなの嘘よ! そこの女の陰謀よ!」
 フローレンスが叫んだ。
「そうだ。フローラが卵を盗むわけがない」
 ヴァイオレンツも追随する。

「竜の魔法が嘘だというの? この魔法はあの日彼女の住む洞窟にいた水たちの記憶と、それからあなたたちが逃げているのを目撃した風の記憶を映したもの。すべてが真実よ」

 人間には扱えない魔法だけれどね、とミゼルがレイアの後を引き継いだ。
 魔法使いたちの間に動揺が広がる。
 自分たちの力では到底及ばない魔法の力の一端を見せつけられたのだ。

「しかし……」
「人間の王の息子よ。いくら愛してる人の言葉とはいえ、すべてを盲信するのはよくないことだ。人を導く立場の人間のすることではない」

 ミゼルがヴァイオレンツをやんわりと諫める。

「しかし、心優しいフローラが竜の卵を私欲のために盗むなど……」
 ヴァイオレンツが苦しそうに声を出す。
「王子よ、自分の見たものを否定するな」
 ミゼルの言葉がヴァイオレンツを突き刺す。

「嘘よ! あんな魔法嘘! 竜の力なんてでたらめよ。どうして、どうして? わたしの世界なのにどうして思い通りにいかないの? わたしはこの世界のヒロインなのよ!」

 フローレンスが喚いた。
 ミゼルに、レイアに。黄金竜相手でも一歩も引かない。強気な態度というか、開き直りというか。
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