悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 突然に現れた黄金竜が、彼らの魔法の力で清純潔癖な少女の過去を暴いたのだ。
 にわかには信じられないのも無理はない。ぶりっ子フローレンスの外面は完璧だったから。

「許さないっ! あんな、ただの悪役令嬢が黄金竜に庇われるなんて! あなただって。ゼートランドの王子様のあなたもそこの悪女に騙されているのよ!」

 フローレンスは矛先をレイルに変えた。
 彼女はもはやなりふり構わずにレイルに掴みかかる。
 レイルの従者がそれを阻止しようとするが、当の本人が従者に「構わない」と告げた。

「俺は騙されていないよ。リジーは優しくて、面倒見が良くて、たまに年上みたいに思うこともある、素敵な人だ」

 うわ。なんだか聞いているこっちのほうが恥ずかしくなる。
 でもさらっと失礼なことも言ってくれたよね。
 悪かったわね、年よりじみた台詞吐いてて。

「俺が今日ここに来たのもリジーのため。彼女にちゃんと謝りたくて」
「はあ?」

 フローレンスが訳が分からないとばかりに声を出す。
 レイルがわたしと向かい合う。

「言い訳になるけど、きみの素性を調べてきたのは、俺の従者のルーベルトで。けど、俺も好奇心に負けて聞いてしまった。ごめん。勝手に調べて」
「いえ、アウレイル様は悪くありません。私が従者として勝手にしたことです」

 レイルの謝罪に、近くに佇んでいた若い青年が口を挟む。
 茶色の髪に、年はたぶんレイルと同じか一つ二つ上くらい。彼がルーベルトなんだろうなとわたしは思った。

「とにかく、だ。俺はリジーとちゃんと向き合いたいし、ここに来たのは宣言をするためだ。リジーがシュタインハルツで居場所がないのなら、俺がつくってやる。俺の嫁に来い、リジー」

「ちょっ……、ええぇぇぇぇっ!」

 今度はわたしが盛大に声を出す番。
 い、いや。何言っちゃってんの、この人。

「お、王子様が何を言っているのよ?」
「何って、結婚の申し込み」

 言った本人がめっちゃけろりとしていて、わたしは無性に腹が立った。

「とりあえず牽制も込めて今この場で。いいところは全部竜の夫妻に持って行かれたけど」
「あなた、勝手にお嫁さん決められる立場じゃないのよ?」
「だから両親には言ってきた。ちょっと、嫁取りにシュタインハルツまで行ってくるって」
「は、はあ……」

 なにそれ。ちょっと隣まで醤油借りてきます的な軽いノリは。
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