悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「ちょっと待ちなさいよ! リーゼロッテがゼートランドの王子様のお妃? そんなのおかしいじゃない」

 まだいたのか。
 フローレンスが大声を出した。

「彼女はもうアウレイル様の婚約者だ。貴殿もヴァイオレンツ王太子の婚約者なら、場に相応しい態度を示したらどうだ?」

 ルーベルトの厳しい口調にフローレンスは「そんなの認めないっ! この世界の主役はわたしなのよっ! わたしの引き立て役風情が幸せになるなんて、絶対に認めない」と逆に彼に詰め寄った。

 取り乱したフローレンスにルーベルトはどう接していいのか、一瞬迷う。
 その隙を見逃さずにフローレンスがわたしの腕を掴んでレイルから引き離す。

 強い力にわたしは思わず「痛い。痛いから」と漏らした。

「さあヴァイオレンツ様! すべてはこの女の茶番です。今すぐに白亜の塔へ送ってください。わたし、でないとゆっくり夜も眠れないわ!」
「待て。リジーは連れて行かせはしない。彼女は俺の妻になる女性というだけではない」

 連れて行かせまいと、レイルがわたしを取り戻そうとする。
 ああもう、人の体をみんな勝手に!

 フローレンスはわたしの腕を話してくれないし、レイルはわたしを抱え込もうとするし。
 三人団子になって何が何やら。

「ほら! 双子たち、あのセリフを言ってやるんだ」

 え、まだなにかあるの?

「はいはーい!」
「レイルったら遅いんだから」

 待ってましたとばかりにちびっ子黄金竜がミゼルの背中からぴょこっと顔をのぞかせた。
 二人はわたしたちの近くまで飛んできて、それからちょこんと座った。

「わたし、リジーのことが大好きなの。だからね、決めたの。わたし、リジーを守護する! リジーはわたしの、竜の乙女なの」
「ファーナ、そこは僕たちの、って決めただろ」

「あ、そうだった」
「リジーは僕たちの双子が守護する、竜の乙女なんだ」

 突然闖入したちびっこ竜の言葉に、今度こそフローレンスが黙り込み、ついでにヴァイオレンツ達も口を半開きにして固まった。

 それはわたしも同じで。

「あ、あなた達、竜の乙女って言葉の意味わかっている?」

 一拍したのち、ようやくそれだけ言った。
 双子はけろりとしたもので。

「うん。レイルが教えてくれた。竜に愛される存在だって」
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