悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「は、はい。人間ですよ。人間」
 わたしはえへへ、と愛想笑いを浮かべた。

「ほう。一体またどうして」
「これには深くて浅い理由が」

 ほう、どういうことだね、と老人精霊が尋ねたとき、今度は辺りに風が巻き起こった。

「うわぁぁ。ごめんなさい。大杉のご老人! このたびはとんだご迷惑を」

 中世的な声で必死に謝るのは、これまた精霊だった。

 そよそよと空気が舞っているのを鑑みるに、彼は風の精霊だろう。彼って言ってもいいのかな。確か、四大精霊って性別がなかったはず。

「ドルムント。おまえさんがこの双子たちの世話係なのだろう。じゃったらしっかり監督をせんかい」
「面目ないです」

 半透明でもなく実態を伴った風の精霊は薄茶の髪をした、やや気弱そうなどちらかというと男性寄りの風貌をしていた。わたしよりも年上、二十代後半くらいの雰囲気。彼って呼んじゃっていいかな。

「ほら、二人も謝りましょう」

 ドルムントと呼ばれた風の精霊がファーナとフェイルの方に顔を向ける。
 さすがにまずかったと思っているのか、二人は素直に頭を下げた。
 老人精霊はもうあと二、三ドルムントに小言を言って姿を消した。

「ふう」

 ドルムントがため息を吐いた。
 わたしも疲れた。

「二人とも、安易に魔法を使っては駄目だといつも申しているはずです。いたずらばかりしていては立派な黄金竜になれませんよ」

「だぁってぇ」
「ねえ」

 ドルムントの小言に双子竜は口をとがらせる。
 今回はわたしが歩きにくくて手伝おうとしたから。かなりの力技ではた迷惑な方法だったけど。

「だってじゃないですよ。まったく。ちょっと目を離したすきにすぐにいたずらをするんですから。人間のご令嬢を連れ帰った時だって私の言うことなど聞いてもくれずに炎を吐いてしまわれて」

「あのときは、つい楽しくて」
「ちょっと人間を驚かせようと思ったんだもん」

 二人の言葉にわたしは頬を引きつらせた。いや、それホント魔法警備隊飛んでくる案件だから。
 わたしは息をすぅっと吸った。

「フェイル、ファーナ」

 二人はわたしを見上げる。

「いいこと、二人とも。わたしのことを手伝ってくれようとしたのは嬉しかったわ。お礼を言う」
「ほんとう」

 双子竜はわたしの言葉に目を輝かせる。
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