悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「よかったですぅ」

 ティティは上機嫌にあれやこれや勧め始める。わたしはそれらを順番に攻略していく。カリカリに焼いたベーコンにとろっとろの半熟加減の目玉焼き。これをパンにつけて食べるのもおいしいんだよね。

 はぁぁぁ、幸せ。美味しいは正義。
 チーズの味も濃いし、野菜のスープは優しい味で口の中でほろっととろけるほどに蕪が柔らかい。

 大満足で朝食を胃の中に収めたところで、レイアが話しかけてきた。

「何か足りないものがあったら遠慮なく言ってちょうだいね。わたくしたち、あなたがここに住むことにしてくれて嬉しいの」
「いえ。お気遣いなく。ほとぼりが冷めたら出て行きますから」

 わたしは間髪入れずに釘をさす。このまま竜のお世話役にされたのでは身が持たない。

「ええええ~。そんな釣れないことを言わないで。ほんのに二、三十年くらい住んでくれていいのよ」
「いえいえ。さすがにそれは長すぎですから。もっと早くに自立します」

「リーゼ、せっかく新しい住まいに越してきたのだから、もっと森での生活を楽しんでほしいわ。自立も大事だけれど、人生臨機応変に対応していくことも大切よ」
「臨機応変って……。かなりの不可抗力でここに住むことになりましたよね?」
「うふふ」

 あ、笑ってごまかした。

「普通竜に気に入られたら喜ぶんじゃないのかな」
 ミゼルが会話に加わってきた。

「それは、人にもよるんじゃないですか。わたしはこれからは魔法とは無縁に暮らしていく予定だし」

 大体の国でも魔法使いはそれなりの家柄に属している。魔法を使う職業についちゃうと、たとえシュタインハルツではない国だとしてもどこで身元がバレるかわかったものではない。
 新しい人生を始めるうえで、わたしは魔法を使わないことを決めていた。

「あら、竜の子守なんてしたくてできるものでもないし、竜と交流を持ちたくなって持てない人間はたくさんいるのよ」
「それはそうでしょうけど」

 特に、竜の加護を受けたい人とかね。

「人生回り道も必要だと思わないかい?」

 にこにこしながらそんなこと言うの止めてもらえないかな。
 この夫婦、当分わたしを手放す気は無いなとわたしは内心盛大にため息を吐いた。
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