悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 炎の精霊であるティティは、ドルムントと違って女性めいた容姿をしている。くりっとした瞳はやや釣り目で肌の色は濃い。赤い髪は頭のてっぺんで一つにまとめている。

 お母さんみたいな台詞を言ったティティに双子がそろって「はぁぁい」と返事をした。
 ついでにそれが合図とばかりにフェイルは高度を一気に上昇。

「ひゃぁぁぁぁ!」

 わたしはおもわず叫んだ。
 急上昇するなら最初に言って!
 みるみるうちに森が遠くなるって血の気が引いてきた。

「ほらほら。見てぇ! もう地上があんなにも遠いよ」

 嬉々としたフェイルの声がどこか遠くに感じる。
 わたしは思い切り彼の背中にしがみつく。うっかり落ちたら確実に即死案件だって!

「今日はどこに行く?」
「ちょ、それ、どころじゃないから」

 高所恐怖症ってわけでもないけど、体に吹き付ける風はびゅーびゅーと強いし、安全バーなんて代物、もちろん黄金竜の背中にはついてないし、でわたしは周りを見る余裕もなく必死にしがみつく。

「ひゃぁぁぁぁ落ちるっ! 落ちるからっ!」
「うわっ。フェイル様、駄目ですよぉ。人間のお嬢さんはもっと優しく扱ってください」

 ドルムントの慌てた声が後ろの方から聞こえてきた。
 彼の声がするのと同じくらいから、体に当たる風が弱くなっていくのを感じた。

 さっきまで風圧がすごかったのに、今は地上にいるのと同じくらいのそよ風しか感じていない。わたしは恐る恐る目を開ける。

「一応、私が魔法で援護してますからご安心を」
 風の精霊ドルムントが魔法を使ってくれたらしい。

「あ、ありがとう……」
「いえ。その、すみません。フェイル様たちをしっかりお止め出来なくて」

 ドルムントの声がひゅんと沈んだ。
 あーうん。それは早く何とかしてほしい。というか地上に返して。

「フェイルばかりずるいわ。わたしもリジーを乗せてお空の散歩したいのにっ!」
 と、フェイルの隣を飛んでいるファーナが不機嫌な声を出す。

「まだ僕が一緒に飛ぶのー」
「順番~」

「もうちょっと僕の番なの」
「わたしもリジーと遊びたい」

「ちょっと、人を取り合って喧嘩しないで! つーかわたしはどっちの背中も嫌だって!」
「なんで?」
「なんでぇ?」

 こういうときだけ息をそろえるな。

「普通に嫌でしょ!」

 空の上で三人が喚き始める。
 ああなんてしょうもない光景。
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