悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「空を飛ぶの楽しいのに!」

 フェイルは突然にくるくると大きな円を書くように飛びはじめる。

「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ちょ、や……マジにやめてぇぇぇぇぇ!」

 ジェットコースター的動きにわたしは思い切り悲鳴を上げた。
 それはもう思い切り。

「こんなこともできるよぉ」

 今度は直角にぐぅぅんっと上に飛んだかと思ったら急に落下。ようするに猛スピードで下へと向かい始める。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
「フェイル様ぁ。おやめくださいぃぃぃぃぃ!」

 ドルムントの悲痛な叫びが遠くの方で聞こえたがわたしはそれどころじゃない。

「あ。ずるーいっ。わたしもこのくらい飛べるもん! フェイル、交代」
「まだだめぇぇ。リジーも僕の方がいいよね?」

「いますぐ降ろしてぇぇぇぇぇ」

 空と森との位置が逆転。つーか、無理。もう無理。いますぐおうちに帰りたいっ。

 フェイルがどう動いているのかもわからない。目をつむって、ぎゅっとチビ竜にしがみついて、わたしはひたすらに耐えた。お世話係ってなにそれ、こんなにも命がけなの? ありえないっ!

 短い時間が永遠にも感じられて、わたしはひたすらに天然ジェットコースター的運転に耐えた。
 目をつむっていたからよくわからないけれど、ふわりと体が動いたのを感じた。

「リジー! 今度はわたしと一緒だよ」

 近くでファーナの声が聞こえた。
 おそらく彼女が強引に魔法か何かでわたしの体を引き寄せようとしたのだろう。

「ファーナ様、駄目です。リジー様には魔法をかけていますのでそんな強引に引き寄せては」というドルムントの声が聞こえて、一拍後。

 わたしの体は宙へ投げ出されて。
 重力の法則に従って落下を始めた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 落ちる。
 落ちるから。

 遠くの方でいろんな人の声が聞こえたような、気がして。たぶんドルムントとかフェイルとかファーナとか。
 しかし、それどころじゃないわたしはただ悲鳴を上げることしかできなくて。

 これってスカイダイビングじゃないからパラシュート開かないんだっけ、とかしょうもないことが脳裏によぎった。前世の記憶ばかりが鮮明によみがえるな、とか思っていたらわたしの落下速度が急激に緩やかになる。

 風がわたしの体の周りを囲い、下からふわりと押しあがるような感覚を感じる。
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