悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 まずは砂糖と牛乳を鍋に入れて弱火でかき混ぜる。すぐにファーナが「わたしがやる」と手を挙げたためティティに側についてもらいながら彼女にやってもらうことにした。

 その間にわたしは卵を割って卵黄と卵白に分けていく。フェイルもわたしの真似をして卵を割ったが、思い切りべちゃっと失敗。後でオムレツでも作ろう。

 わたしはこのまえティティにもらったレシピ本を読みながら作業を進めていく。
 さすがにレシピと作り方が全部頭に入っている、なんてことはない。パティシエじゃないしね。それでもレイルが感心した様子でわたしの手元を見ている。

「さすがはシュタインハルツ人ってところだな」
「え?」

「だって、お菓子作りをするお嬢様って、シュタインハルツ人くらいだろう?」
 彼はなんてことないように言った。

「あ……」

 わたしはつい目を泳がせてしまった。
 お嬢様って言ったし、彼。

「さあ。卵を混ぜていくわよ。フェイル、ゆっくりお鍋の中に混ぜた卵黄を入れていってね」

 わたしはレイルの言葉をさくっとスルーしてフェイルに卵黄の入ったボウルを持たせた。
 レイルは何も言わない。

 砂糖の入った牛乳の中に卵黄を加えて、ゆっくり木べらを使ってかき混ぜて。
 わたしは鍋の中身を別のボウルに移した。

「えっと、レイルにはこれから氷系の魔法を使ってもらいたいの」
「氷?」

「うん。この液体をね、冷やしたいの。あ、でも直接はだめ。この下にもう一つ入れ物を重ねるから、そこに氷を出すか、冷気を出してもらって、下から冷やしたいの。できる?」
「できるよ」
 レイルはあっさりと頷いた。

「魔法なら僕たちも使えるよ」
 はいはーいと手を上げて主張をするのはフェイル。

「フェイル様たちはまだ氷の魔法は習っていないので無理だと思いますぅ」
 即座にティティから突っ込みが入った。

「うっ……」
「じゃあ今から習う!」

 と、ファーナ。

「それだと厨房が氷漬け……いえ、ぶっ飛びますからやめた方がいいですよぅ」

 ティティは案外に容赦ない。「リジー様のお菓子、食べれなくなりますよぉ」と重ねて言われて双子はだんまりを決め込んだ。どうやらティティの勝ちらしい。

「じゃあお願い」
「よし。わかった」

 レイルはわたしの言葉に合わせて両腕を前に出す。
 彼の周りに魔法の力が集まりだす。
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