悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 というところでわたしはいやいやながらも起きることにした。
 どうやら寝ぼけ眼で頭の上から聞こえてくる幼い声に反応していたらしい。

「ふわぁぁ」

 わたしは大きなあくびをした。なんか、めっちゃよく寝たな。

 さて、しょうがないから生意気盛りな甥(八歳)と姪(五歳)の相手でもしようか。にしてもお姉ちゃんも休みの日になるたびに子供連れて実家に遊びに来るのいい加減やめようよ。わたしに子守りさせる気満々だろ。

 自分のうちのベッドから起き上がったわたしは目を瞬いた。
 なにせあたりは記憶にある日本の、わたしの部屋ではなかったから。

 というか、なんか周りが妙にごつごつしているというか、まごうことなき自然にあるような洞窟というか。うん。洞窟だよね、これ。一応明かりは灯っているけれど。

 その灯りも普通の、ろうそくの炎ではない。まるく光るひかりの球はあきらかに魔法で灯されたもの。大きくて明るいひかりの玉が洞窟内をしっかりと照らしている。

 わたしは自分の身体を見下ろした。
 ドレスを着ているし、髪の毛は赤い。

 ということは、乙女ゲームのリーゼロッテになった夢を見ていたのではなく、こっちがまごうことなき現実で。

 そうだった。わたしは思い出した。
 わたしは乙女ゲームの悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムに転生していたんだった。

 薬飲んで死んだふりなんてしたから記憶が一瞬ごっちゃになっちゃっていたらしい。
 頭の中でこれまでのことを整理してみよう。

 わたしは『シュリーゼム魔法学園へようこそ☆』の悪役令嬢、リーゼロッテに転生したことをある日自覚した。それで自分なりにバッドエンド回避を目指して生きてきたんだけど、運命には逆らえなくて、幽閉エンドが現実味を帯びてきた。

 わたしはどうにかしてバッドエンドを避けれないかと考えた。ものすごーく考えた。

 で、思いついた。

 最後の最後に毒を煽って死んだふりをして、埋葬されたと見せかけつつ、こっそり国外脱出。そのあとは一人で働きながら暮らしていけばいいんじゃない、と。

 そうと決めたわたしは城下にこっそり人をやって見つけた非合法の薬師から仮死状態になる薬を買って、それを飲んだ。

 そこから記憶が途絶えている。

「ねえねえ、おねーちゃんお名前は?」
「髪の毛の色きれいだね~」
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