悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「じゃあ僕と一緒にお風呂入る?」
「あんたたちってばどうして揃いもそろって……」

 さすがは双子。思考回路がそっくりで恐ろしい。
 とにかく、お風呂は駄目よ、とわたしは念を押しておいた。

◇◆◇

「リジー、今日は温泉に行きましょう!」

 朝起きたわたしがいつものようにティティ給仕のもと朝食を取っていると、ウキウキ顔のレイアが食堂へと入ってきた。
 わたしは口の中に入れていたパンを牛乳と一緒に流し込む。

「温泉?」
 レイアがわたしの目の前に腰かける。
「リジー、お母様が温泉に行こうって!」
「行こうって!」

 続けてフェイルとファーナが駆け込んできた。
 二人はわたしの両隣に陣取ってわたしの腕をぐいぐいと引っ張る。

 お願い。朝食くらいはゆっくり食べさせて。

「ってあんたたちの入れ知恵ね」
「ええ~違うよう」
「違うもん」

 双子は息の揃った返しをする。

「子供たちも最近いい子になってきたし、たまには他の黄金竜とも交流したほうがいいかなって思って。わたくしも温泉で鱗のお手入れしたいし」
 レイアがにっこり微笑む。

「あ、これ美味しそう」
 フェイルがひょいとレーズン入りのパンを掴む。

「あ。こら。リジーの食べ物を奪わないの」
 め、っとレイアが睨むとフェイルは素直にパンをかごの中に戻した。

「はあい」
「まずはリジーに許可を取らなくては駄目よ」
 お、ちゃんとお母さんしてる。

「リジー僕もひとつ食べてもいい?」
 フェイルが素直に従う。
「いいけど、ファーナと半分こよ」

 双子がパンを食べている隙にわたしは中断していた朝食を再開する。
 あらかた胃の中に収めるとレイアが「竜のね、領域に有名な温泉があるのよ。卵を産む前はよく通っていたの。美容にいいのよ。人間の女の子もこういうの好きでしょう」と説明を始めた。

 どうやら竜たちも温泉が好きらしい。しかも効能が美容とは。竜とて女子の思考は人間と変わらないらしい。

 意外でびっくりした。

「そんなものがあるのね」
「ええ。火山口のちかくでね、千度くらいの泥がぶっくぶっく泡立っててね」
「それ、人間が入ると死ぬやつだよね」

 竜なら千度も適温ですか。マジか。すごいな、黄金竜。

「あら、わたくしたちだってさすがに千度の泥浴びたら大変よ。やけどしちゃうわ」

 やけどで済むあたり人間よりも強いですよ。
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