悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「まあ冗談はさておき、わたくしたちが行く温泉は、たしかに泥泉だけれど火山口近くではないわよ。温度はちゃんと適温。鱗がしっとり潤うの」

 どうかしら、と彼女は続けた。
 たしかに前世が日本人なわたしはお風呂は大好きですとも。温泉って聞くと心が浮き立つのは果たしてどちらの血によるものか。今は一応シュタインハルツ人なんですけどね。

「興味あるけれど、そこって人間が立ち入っても大丈夫なの?」

 わたしは一応聞いておく。
 竜の領域に人間がいても大丈夫なの、って。

「あら、一人くらい大丈夫よ」

 レイアはわたしの懸念もなんのその。
 やたらと麗しい笑顔を返してくる。

「絶対に楽しいわよ。子供たちもリジーが一緒の方が言うこと聞くと思うし」

 というわけで特に反対する理由も無いので(決して温泉に釣られたわけでもないよ)わたしはレイアの申し出に乗ることにした。

◇◆◇

 いざ出発という段になって、タイミングがいいのか悪いのかレイルがやってきた。
 レイルは竜の姿のレイアたちを見て、わたしに「どうかしたのか?」と聞いてきた。

 最近、人の姿でいることが多い彼らだけれど、本当はこっちのほうが正しい姿なんですけどね。

「今日はね、これから温泉にいくのー」

 竜の姿のファーナが体を揺らす。尻尾もつられてぴょこぴょこと揺れている、というかフェイルの体にぶつかって彼が迷惑そうに横にずれている。

「温泉?」
「そうよ。たまにはのんびりしたいと思って。そうだわ、あなたも一緒に行く?」

 レイアはちょっと近所のパン屋に行くからあなたもどう、的なノリでレイルに尋ねた。

「俺は……ちょっと待っててくれ」

 と、彼はくるりと踵を返して森の方へ駆けていく。
 そういえばレイルはいつも誰かと一緒にレイアたちの住まいにやってきているんだっけ。もう一人が空気のように気配を消しているからすっかり忘れていたけれど。

 しばらくするとレイルが戻ってきて「せっかくの機会だから行く」と宣言をした。

「ちゃんとお許し貰ったの?」
 わたしが尋ねるとレイルは「ちゃんと宣言してきたから大丈夫」というよくわからない返事をした。

 まあ別にいいけど。

「温泉はみんな全員一緒に入る? みんなで遊べる?」

 と、ここでフェイルが発言をする。
 わたしは顔を引きつらせた。
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